カテゴリー: ナ行



暦物語


この本はちょっといただけない。

西尾維新にしてはありえないぐらいにひどすぎる。

西尾維新の本の中でもこれまで何度もチンタラ展開しているなぁ、とか、なかなか進展しないなぁ、この話、とか、極端なものではこの前半部分全部無くてもストーリーとして成り立つよね、みたいなことは往々にしてあったが、そりゃ読んでいる方にすれば、次の展開、次の展開、とうながしたくもなるのだが、じらしてじらして、またそのじらしのどうでもいいところが結構面白かったりして、まぁなんだかんだと言いながらも楽しませてもらっているのでOKなのだろう。

ここ一年を振り返ったから暦物語なのか、阿良々木暦だから暦物語なのか、おそらく両方の意味なのだろうが、あの春からの出来事ならめぼしいところはすべからく本編に書かれているはず。
今さらそのおさらいをしても仕方がないし・・。

だから、ささいな小さな小さな話小さな話を4月5月と月に一つずつ十二ほど。

小さくまとまった話。他の小編小作家なら、まぁまぁの評価をもらうのかもしれないが、こんなつまらない話を西尾維新に期待している人はいないだろう。

本人が積極的に書いているとは思いづらい。

悲鳴伝の続きの悲痛伝、悲惨伝で四国にのめり込んで四国参りをしている作者に、なんとか最終版までのつなぎを!と編集者が無理矢理に書かせたような光景が目に浮かんでくる。

もし、そうだとしたら、編集者も余計なことをしたものだ。

こんなものを世に出すぐらいなら、読者をひたすら待たせておいた方がはるかにいい。

暦物語 西尾 維新 著



のろのろ歩け


急激な発展を遂げる中国という国。

主人公は10年前に訪れたことがあり、今回は初の中国の女性ファッション誌を創刊のための助っ人として北京に招へいされる。

そこで彼女が見たものは、感じたものはあまりの10年前との違い。

日本の高度成長期や日本のバブル期と重ねるが、もはや成長度合いはそんなものではないだろう。

主人公氏の印象にあるような人民服はさすがに10年前でも無かったかもしれないが、もう少し前ならあっただろう。

一昔前の中国の映像と言えば人民服と自転車の洪水。

今やどうだ。

至る所の高層ビル群。

中国という国に対して、嫌悪感や薄気味悪さを感じる人が結構いるが、これは何も尖閣の問題ばかりが原因ではないだろう。
共産党一党独裁で民主主義の国ではない、これも原因とは言い難い。
他の王政の国にそれほどまでの嫌悪感を持つだろうか。

日本の戦後から高度成長、バブルという他の国が50年かかって為し得たような大成長をたったの五分の一ほどの短期間で成し遂げてしまう、そんな急成長ぶり、急拡大ぶりなんともが不気味でならない。ということなのではないだろうか。

あまりにそのスピードが凄まじいのだ。

当然、いびつなところが残るに決っている。
今年の正月明けのニュースでは、北京は晴れの日でも薄暗いほどに空気が汚れ、人々はなるべく外出を控えるようにしている、とか。

タイトルにある「のろのろ歩け」は「慢慢走」(マンマンゾウ)という言葉から来ている。
意味するところは「Take Care!」「さよなら」の代わりに「気を付けてね!」とか「お元気で!」という言葉を使うような意味合いで使われるらしいのだが、「慢慢走」ということば、「ゆっくり行けよ」と言う言葉が挨拶に使われるというところがおもしろい。

あまりの急ピッチで進んで行く社会に対して、人々の本音は「ゆっくり行けよ」と言っているかのごとくではないのだろうか。

他に上海を舞台とした話、一話。

台湾を舞台にした話、一話。

のろのろ歩け 中島京子著



神様のカルテ


信州にある病院での話。

主人公の医者は2時間ばかりの仮眠をとっただけでまるまる二日間働きづめのフラフラ状態。

でようやく家へ帰れたんだから、寝りゃいいものを同じアパートの隣人のすすめにのって飲み始めてしまう。

それでまた睡眠時間を擦り減らして、病院から緊急のお呼びがかかり、またまたフラフラで治療にあたる。

そんな状態で治療にあたって大丈夫なのかいな、と思ってしまうが、どうも大丈夫らしい。

慢性的な医師不足。

研修医だろうが専門外だろうが、医者なら緊急医としてOKなのだ。

地域医療の実態をコミカルなタッチで描いている。

主人公の話す古風な言葉遣いが、その誠実さを強調している。

ご自身、信州の医学部を卒業後、信州で医療を行って来たということなので、かなりの部分は実体験にもとづいたものなのだろう。

大学の医局へ行って最先端の医療を身につけて来い、との友人からの忠告。

果たして最先端の医療とは何なのか?
最先端を使えば、生き永らえさせることは出来るだろう、だが、そこに人間としての尊厳が残っているのかどうなのか。

どんな人にも必ず訪れる死。
その時を迎えるにあたって、その人は幸せだった、と言い切れるのかどうか?

まさに最先端医療というものの首根っこにやいばを突き付けたような作品だ。

神様のカルテ  夏川 草介 著