カテゴリー: ハ行



中国崩壊前夜


北朝鮮の中国とのパイプ役だった張成沢(チャン・ソンテク)氏が公開処刑されて以来、北と中国の間は冷え切っていると言われている。

著者は大きな間違いだと言い切る。
張成沢氏を切ったのは瀋陽軍区とのパイプを切ったのであって、中国の中央の意思を尊重したもので、寧ろ中央とはもっと密接になったのだ、と。
だから北にはまだちゃんと中国からの石油がパイプラインで送られているのだと。

ソ連の崩壊を予想し、その前にソ連が東ドイツを見限る事を言い当てていた長谷川氏は、今の中国と北の関係をそれに似ていると見ている。

中央と北は近くなったが、もういつまでも北の面倒を中国は見続けていられないのだ、と。

中国中央が見限ったら、北はまもなく崩壊する。
金正恩はスイスあたりへ亡命するだろう、とまで言い切っている。

その長谷川氏の予想のせいではあるまいが、とんと金正恩氏は表舞台に出て来ていない。
それより何より、中国そのものの危機。
もうそんなに遠くない未来だという。

中国の中央の崩壊、その後は、一体どんな姿になるのだろう。

長谷川氏は七つの軍区がそれぞれに小競り合いをしながらの状態がしばらく続くのではないか、と見ている。

香港のデモ、かなり長期化しつつある。

このデモが何かのトリガーを引くことになるのかもしれない。



風の向こうへ駆け抜けろ


競馬のジョッキーという、これまであまり取り上げられることの無かった世界を舞台にした話。

主人公は芦原瑞穂という18歳の女性騎手。

中学を卒業すると全寮制の競馬騎手の養成学校に入り、男子生徒よりも優秀な成績を残して卒業。
卒業と同時に各騎手候補には就職先となる地方競馬の厩舎があてがわれる。

瑞穂にあてがわれたのは中国地方にある鈴田競馬場。
そこの中でも競馬馬の藻屑の漂流先と言われるような最も弱小の厩舎。

今や巷では「女性が輝く社会」というのが合言葉となった感があるが、競馬のジョッキーという男ばかりの世界に女性騎手が入って行くと皆はどんな目で見るのか。

「人気取り」どれだけ実力で勝負しようと思っていてもそういう目で見られる。
厩舎の職員は別にしても地方都市の市の職員などは広告塔としての役割りとしか考えていない。

競馬の専門用語も多々出てくるし、地方競馬のやりくりや人間関係なども、実際に経験した人で無ければ書けないのではないかと思える箇所がいくつもある。
かなり中まで入りこんで取材したのだろうか。

廃業寸前になっていく厩舎が起死回生。中央から捨てられたあばれ馬を調教し、彼女と共に中央の大レースへと乗り込んで行く。

なかなかに感動させられる一冊だ。

風の向こうへ駆け抜けろ 古内 一絵 著



兵士たちの肉体


アフガニスタンへ派兵されたイタリア軍の若い兵士達を描いたというあまり目にすることのない類の本。

兵士たちのこの戦いに対するモチベーションの低いこと。

なんでこんなところへ来たんだろ、任期をさっさと迎えてさっさと国へ帰ろ、ほとんどそういう空気しかないぐらいだ。

9.11テロ直後、アメリカ国内ではアフガン派兵を指示する人は圧倒的に多かったという。
その後のイラクもそうだが、果たしてアフガン派兵に大義はあっただろうか。

9.11テロはタリバンが起こしたわけではない。

ビン・ラディンをかくまっているかもしれない、という容疑だけ。

ましてアフガニスタンの民間人にはさらに何の罪もない。

そして、その敵とみなされるタリバンにしても一旦武器を下ろしてしまえば、民間人との区別がつかない。

アメリカがかつてベトナムで味わったような民間人か敵かわからない、いらいら感を各国の兵士は味わったことだろう。

イタリアの若い兵士たちはその見えない戦いで凄惨な犠牲者を出してしまう。

この本にはいろんなタイプのイタリア兵が登場する。
マザコンの童貞クン。
高額な衛生通信料を払ってネット上の仮想彼女と燃え上がる男。
皆のリーダーでありながらも女に身体を売る男娼だった小隊長。
そして、ほぼ主人公的な役割りなのが、うつの薬を服用する軍医。任期満了になっても帰国を断る人。

フィクションでありながらも「フォブ・アイス」という舞台で起こった惨劇は実際に起こったことをモデルにしているのいだという。

少々眠たいのを我慢する必要はあるかもしれないが、少々珍しいイタリア版戦争文学と言えるのだろう。

兵士たちの肉体 パオロ・ジョルダーノ 著