カテゴリー: ハ行



呪術


アフリカの呪術、これだけ情報技術が発達した現代でさえ、サッカーのワールドカップやその予選などでも呪術を使った、使ってないで、毎回騒ぎになる。

アフリカが舞台で始まるのでそんなアフリカの呪術を描いた話かと思っていた。

アフリカでも医療が十分に行き届かない地域では呪術師が医者の代わりをする。
呪術は病を治したり、豊漁になるように祈願したり、ということばかりに使われるのではない。
最も使われるのは、人を呪い殺すことだ。
その呪術に欠かせないのがポーションと呼ばれる薬のようなもの。
そこに調合する材料は呪術師により違うのだが、ここに登場する東アフリカ一と呼ばれる呪術師はアルピノと呼ばれる先天性色素欠乏症の体質の人の身体を材料に使う。

まさか、そのアルピノ体質の人の命を奪ってまではよもや、と思ってしまうのだが、そのよもやなのである。
各地でアルピノ狩りが始まる。

ケイコという日本人の母とタンザニア人の父を持つアルピノの女の子もそんな渦中の人となる。
ダルエスサラームというタンザニア最大の都市で学校に通っていたのが、各地でアルピノ狩りが始まったので、叔父の家へと避難するが、その叔父が商売の為に彼女を売ろうとする。

逃げ込んだのが、アルピノばかりを集めて匿っている刑務所のような施設。
そこは国が守っている施設にもかかわらず呪術師にとっては宝の山とばかりにアルピノ狩りの連中、というより軍が襲いに来る。

この話は東京オリンピック後、というほんの少しだけの近未来。
IS(イスラミックステート)はシリアで敗北しほぼ壊滅状態になったものの、各地で統制のとれていない無数の小テロ組織が生まれる。
地域地域の部族も同様で武装化した小軍団化に。呪術師に依頼するために依頼者は莫大な金を部族長に落とし、彼はその金で傭兵を雇い、武装集団を形成する。
そんな武装集団が襲うとどうなるか。施設にいいる人間は全員惨殺される。

奇跡的に逃げ延び、日本人のツアーコンダクターの女性に救われたアルピノのケイコ。
治安の良い日本へ帰ってしまえば、もはやだれも手が出せないはずだった。

そこからが、この話の勝負どころなのだろう。
東京オリンピック後の日本が出てくる。
五輪後の日本はもはや治安の良いはずの日本では無くなっていた。

今でこそ、インバウンド、インバウンドと喜んでいるが、東京五輪で来日した人たちはそのまま居ついてしまい、これまでほとんどいなかったアフリカンマフィアが急に台頭して来る。
彼らは、外国人観光客相手に商売をしているので、日本人に害は無いとばかりに日本の警察はほとんど放置状態。

チャイニーズマフィア、ロシアンマフィア、アフリカンマフィアの勢力争いの場となった東京は、もはや夜道を誰もが一人で歩ける街では無くなってしまっている。

そこへ呪術師が来日する。

近未来を書くというのは勇気のいることだろう。
とも思ったが、ここまで近すぎると、返ってフィクションらしく読めてしまうか。
ただ、時代背景みたいなものがどこまでが既に起こったことなのか、未来予想なのか、数年後に読む人は混乱するかもしれない。

呪術 初瀬 礼著



暗幕のゲルニカ


世紀の名画、ピカソの「ゲルニカ」。
小学時代か中学時代の教科書に載っていたような記憶がある。
後にスペイン内戦の片方フランコ将軍側を非難する目的だったと学んだ記憶があるが、
これほどに影響力のある絵だったとは・・・。

ゲルニカの絵はスペイン内戦時にバスク地方にあるゲルニカという小都市がナチスドイツによって空爆される。それは軍事基地を攻撃するわけでも無ければ、兵士を相手にしたものでも無い。全くの無辜の民への虐殺行為だった。
その新聞記事を見たピカソは部屋に籠ったまま何日も出て来なかったという。

パリ万国博覧会への出品作をせかされても全く筆を取らなかったピカソが部屋から出て
愛人のドラを呼んで見せたのが、横7.7M、縦3.5Mもの巨大なキャンパスに描かれたゲルニカの原画。

パリ万国博覧会のスペイン館に展示されたこの絵に対しては賛否両輪。
この絵を書いたのはお前か?とのナチスの問いに対して、いいえあなた方です、と答えるピカソ。

この本、現代とピカソの生きた時代を行ったり来たりする。
ピカソの生きた時代の登場人物はすべて実在の人物で、21世紀に入ってからの登場人物は全て架空なのだそうだ。

現代側の話では、2001年の9.11テロで最愛の人を亡くしたキュレーターの女性がテロとの戦いとの名目で、アフガンを空爆し、次にイラク戦へと向かって行くアメリカにおいて、今こそ、ピカソのゲルニカを展示したピカソ展を開こうと奮闘する。

この本は架空ではないピカソの生きた時代を描く事で、このゲルニカの絵の人に与えたインパクト、ゲルニカの絵の亡命などを含む数奇な運命、いろいろなことを教えてくれる。

この本を読みながら、表紙に印刷されているゲルニカの絵をたびたび見返すことで、なるほど、なるほど、と何度もうなってしまった。


暗幕のゲルニカ 原田 マハ著



幻庵(上)(下)


百田尚樹氏の熱烈なファンだったとしても、囲碁の経験が全く無かった場合、その方々はこの本を楽しめただろうか。

この本、江戸時代のプロの碁打ちの物語で、結構史実に忠実に書かれているように思えるので、どこからが百田氏の創作なのかは良くわからない。

たぶん、囲碁の専門用語について来れなくなった読者は上巻で脱落するだろう。

だが、この本は下巻からが、俄然おもしろくなっていく。

幻庵と名乗る前の井上因碩(いんせき)と本因坊丈和(じょうわ)との凄まじい戦い。

井上因碩は孫子の兵法を用いて、策を弄しすぎたために後に後悔する。

それにしても囲碁の戦いを文章で綴ることはかなり至難の業だろう。

読んでいるこちらも棋譜を見せて欲しくなる。

棋譜はポイントポイントで登場するのだが、打ち掛けとなったその一手のみ、もしくは、これが改心の一手と言われる一手のみにマークをつけられてもなぁ。

棋譜に①から順に全ての順を書いてくれとは言わないが、その直前の数手ぐらい記してもらわないと、その一手の凄味がアマチュア碁しか知らない人間には、なかなか伝わりづらい。

この本を書くにあたっては、百田氏、囲碁そのものや囲碁の古文献も調べまくっただろうし、現役のプロ棋士にもさんざん話を聞きに行ったことだろう。

ただ、その努力が万人に受け入れられたのかどうかは、疑わしい。

江戸時代の命がけの囲碁であったとしても、その一部の棋譜から面白さを感じ取れるのは、アマチュアでもかなり上段者じゃないんだろうか。

まぁ、別の読み方みあっただろうけど。

幻庵  百田 尚樹著