カテゴリー: ハ行



フォルトゥナの瞳


死の迫った人の身体が透明になって見えてしまう。
そんな能力が突如身についてしまった青年の話。

だんだんと見慣れて行くと、その透明度に応じておおよその死期までわかるようになる。元気そのものの若者で全く透明状態なら病死ではなく事故死だろう、とかおおよその想像がつく様になって来る。

もっとも、全く透明なら顔面が青白くて今にも死にそうな顔をしててもわからないんじゃない?などと瞬間思ってしまうが、やぼな突っ込みというものだろう。
運命は変えられないか?と青年は自問しながらも直後に事故死をするなら、話しかけたりすることで、一瞬、次の行動を遅らせたりすることで事故を免れるんじゃないか、とチャレンジしたりする。

ある時、そんな能力を持った人間が自分だけで無い事がある時、判明する。
その能力をもう何十年も持ったまま、何も行動をせずに知らん顔を決め込むのだという。
なんでも、その能力を使って人の運命を変え、本来なら死んでいるはずの人を救ってしまうと、その分自分の寿命が短くなってしまうのだという。

ならば、こんな能力など無ければ良かったのに・・・と自問する青年。

この物語の青年はどこかしら「永遠の0」の宮部少尉に通じるものがある。
未来のある幼い子供達が死んでいく、それがわかっていながら何もせずにいられるのか・・・。

百田さんはストーリーテラーとして、素晴らしい才能を持っておられる方。

「殉愛」をめぐってのトラブルがまだ続いているのだろうか。

一時は良くメディアにも登場されたのが、このところパッタリと登場されなくなってしまった。
メディアへの登場はどうでもいいのだが、せっかくの才能。
このまま埋もれさせていいわけがない。

もっともっと百田ワールドを見せて欲しいと願うばかりだ。

フォルトゥナの瞳 百田尚樹 著



チャイナズ・スーパーバンク 中国を動かす謎の巨大銀行


かつて、といってもほんの10数年前までは農村地帯でしかなかったようなところに、日本の地方の政令指定都市をはるかに上回る人口規模の都市がどんどん出来あがる。
海外の人間はもちろん名前を聞いたこともない。中国の国内ですら、ほとんど名前を知られていないような100万人都市が雨後のタケノコのように乱立して来た。

かつて農村だった時には、さほどお金が手に入らなくても、自給自足でメシは食えたので、貧しい貧しい、と言いながらもなんとか生活はしていけた。
その農村を安い土地代で半強制的に立ち退かされ、都会生活者となったとたん、生活レベルがこれまでの10倍、100倍となる。
それだけ稼がなきゃ逆に食っていけない。
それが(生活レベルが10倍100倍だから)それまでの暮しより10倍、100倍豊かになったと言い立てるが果たしてそう言い切れるだろうか。

そういうシステムを作り上げたのが、ほとんど世に知られていない中国開銀なのだという。
地方政府は安い価格で土地を手に入れ、その土地を担保に中国開銀は大量の資金を地方政府に貸し付け、地方政府はインフラ、高層ビル、使う人がいようがいまいが巨大なスタジアムを建設する。スタジアムがあれば、その周囲の土地の値段が跳ね上がるからだそうだ。そうやってバンバン大枚をはたく。
その結果出来たのが、100万人都市の雨後のタケノコ。

同じことを開銀はエチオピア、ガーナをはじめとするアフリカ諸国、ベネズエラ、エクアドルをはじめとする南米諸国に対して展開している。
日本でも紐付きODAなどが問題となったことがあるが、この開銀の場合は紐付きとどころじゃない。
契約書にどうどうと謳われているのだ。
で、相手国政府が中国企業に発注するのではなく、中国開銀からの融資額の一部が直接中国企業に支払われる。絶対に取っぱぐれしない、ということだ。

国内の総都市化の後にアフリカ、中南米のインフラにも触手をのばし、そして国内企業=国有企業の海外展開への育成というよりシェアの独占化に力を貸す。

次世代エネルギー、通信、陸運・・・・・各種のインフラ関連企業の国際競争のにおいて、購入側の資金調達をスムーズにしてやることが出来れば、話は早い。
中国開銀ならそれが出来るのだ。
低金利でしかも支払い猶予にかなりの余裕を持たせる。もちろん、中国国営企業への受注手助けだ。開銀の有利な融資の後押しをバックにつけた中国企業たちは軒並み世界のTOPシェアにどんど食いこんで行く。

これぞまさに共産党が、国家そのものが行う資本主義。
国家資本主義とでもいうのだろうか。

各国のそれぞれの独立民間企業など太刀打ちが出来るわけがない。

アメリカの通信事業の受注を中国の通信企業が行って国家機密が保てるのか、の議論がアメリカであったのは記憶に新しい。

この本の日本での邦訳出版は2014年4月3日。それからまるまる一年。

総貸出残高108兆円(2012時点)で世界一の貸出規模を誇る銀行でありながら、その実体がほとんど知られていない、というこのアンバランスさ。

この一年の間にどういう動きがあったのはは定かではないが、ここに来て急ピッチで中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)の発足に向けた動きが活発化して来た。
日本アメリカは不参加だが、アジア各国のみならず、ヨーロッパ各国も加盟の方向だ。

日米除きの各国を巻き込んでのチャイナズ・スーパーバンクがまさに生まれようとしている。

チャイナズ・スーパーバンク 中国を動かす謎の巨大銀行 ヘンリー サンダースン・マイケル フォーサイス 著



虚ろな十字架


ちょっと買い物に行くその間だけ幼い娘を留守番に残し、そのちょっとの間に強盗に入られ、わずか数万円のために娘を殺害されてしまった夫婦。
我が子を殺害されたばかりというのに真っ先に疑われたのがその両親だった。警察への連絡の後真っ先に事情聴取され、妻にいたっては一日で返してもらえないほどに執拗に聴取され続けた。
娘の遺体があざだらけだったり、近所でも有名な児童虐待の家ならそうかもしれないが・・・。

二人は掴まった犯人には極刑を望むが、一審では無期。控訴してあっさりと死刑判決。

そこでぽっかりと空洞が空いたような喪失感。
結局夫婦は離婚してそれぞれの道を歩こうということに。
極刑を望んで、もしそうならなかったら、二人で焼身自殺をして抗議しよう、とまで意気込んでいたのに。望みどおりの判決となったのに。

かつて妻を強姦された上に妻と子供を殺害された男性が、犯人の死刑を望んで運動をしていたことがあったっけ。
あれも最初の判決であっさりと死刑が確定していれば、あの人はあの運動を起こすこともなく、それこそ魂の脱け殻のようになってしまっていたかもしれない。なんとか極刑を、と訴え続け、運動することこそが生きる力になっていたかもしれない。
あの人は今頃どうしているのだろう。

さて、別れた夫婦だが、今度は元妻の方が殺害されてしまう。
犯人は早々に自首して来た後に、元夫は別れた後の妻の行動を追う。
妻は離婚後、フリーライターとして活動していた。

頼まれ仕事とは別に
「死刑廃止論と言う名の暴力」というタイトルの文章をを執筆。
もうすぐ出版するというところまで書きあげていた。
その文章の主旨は、
「人を殺めた人は命で償うしかない」
「刑務所という更正施設で人は更正などしない」
というもので、自らの体験談はもちろん、被害者遺族の取材、死刑を減刑する側の弁護士への取材も試みた内容だった。

「虚ろな十字架」という本のタイトルもその亡くなった元妻の文脈の派生による。

ならば、この「虚ろな十字架」という本も一見「死刑廃止を許すまじ」が主旨の様にも受け取れるが、そこはどうなんだろう。

話の終盤で出て来る話。
若気の至りで過ちを犯してしまった人の奥さんの言葉。
この人は、その一人の命と引き換えに自分達親子二人の命を救ってくれた。
今も尚、他の数多くの命を救っている。

「人を殺めた人は命で償うしかない」のかどうなのかの判断を読者に委ねようという試みなのかもしれない。

とはいえ、救いようのない犯罪というものはあるもので、上の母子殺害事件などは死刑以外の選択肢があるとはそうそう思えない。

虚ろな十字架 東野圭吾著