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史上最強の内閣


時はアサオ政権末期、史上最低の支持率の中、何も決められないし何をやってもうまくいかない。
そんな中、北朝鮮が日本に向けて核ミサイルをぶっ放すと言い出す。
「東京を火の海にしてやる」とおばさんアナウンサーは豪語する。

さぁ、どうするアサオ政権。

記者会見を開いた内閣、
「実は自分達は二軍なんです」
「一軍は他にいるんです」

三両編成の新幹線を特別に用意させ、急遽京都からさっそうと登場した一軍内閣。

その一軍の首相の名は二条友麿。
外務大臣は坂本万次郎。坂本竜馬とジョン万次郎をかけあわせたような人物よいうことだろうか。
江戸時代の火消しの親方、新門辰五郎をもじったのか、新門辰郎文部科学大臣。
松平内閣官房長官 元会津の殿様か。
高杉総務大臣 長州だな。
浪花秀吉財務大臣に紀伊国屋国土交通大臣、西郷国家公安委員長・・・。

名前からは幕末・維新・安土桃山などの時代の傑物たちが連想させられる。

しかも歴史の立会人としてテレビの報道マン一名とどう見ても朝日新聞だろうと思える新聞記者(ここでは朝地新聞)一名の二名を歴史の生き証人として全ての取材を許す。
但し、公表するのはこの臨時内閣が去った後にする事が条件。

奇想天外なことをしでかすかと思えば、あまりに真っ当な人々なのでびっくりする。

新聞記者から日の丸・君が代問題を問われた文部大臣。
国旗に敬意を払うのはどこの国でも当り前で最低限のマナーではないかと、この国以外ではごく常識的な話をした上で、まだ食い下がる新聞記者に、仮りに歴史上の問題で日の丸に悪いイメージを持つ人がいたとして、それは日の丸の問題なのか?看板を変えてすむ話なのか?日の丸だけを変えるなんてのはずるくないか?我々日本人のこれからの有りようを見せることでその看板はいいイメージとしての象徴にだって出来るんじゃないのか?と逆に新聞記者氏を問い詰める。

あまりに漫画チックな装丁と出だしだっただけに、この正論には少々驚かされる。

明治やその前の時代を連想させる名前の人たちだけに今よりはるかに過激な武闘派内閣で右よりを連想したが、決してそんなことはない。

首相自ら、他国を攻めるどころか憲法九条ですら、守ればいいじゃないかという。

ただ「憲法九条が危ない」と他国に不安を煽るばかりでは平和は来ないよ、と新聞記者氏に語る。
ただ、九条を日本が守るだけではダメでしょう。他国に広めて周りの国でも戦争放棄してもらって初めて、平和が来る・・・とこれまた日本以外の世界では至極当たり前の話。

この内閣、ごく短期間で過去に出来なかったことを成し遂げてしまうわけだが、それを為し得るに至るには内閣官房内閣情報調査室の服部万蔵という忍者のの存在が大きい。

最後、全てのことを成し終えて京都へ帰る一軍内閣のもとを訪れたこの特別取材記者たちに明らかにされた真実。
元陸軍中野学校出身の人たちによる驚異の戦後が明らかにされる。

この手の話、特に麻生の後の鳩ポッポ、空き缶総理と続けば、あぁこんな一軍内閣があったらいいのになぁ、という事を誰しも思ってしまうだろう。
しかし、それを肯定してしまっては「ほーれ、やっぱり衆愚民主主義なんかよりこっちの体制の方がいいじゃないか」と中国の高笑いが聞こえてきそうである。
たとえ、決められない政治の期間があったにせよ一党独裁よりは衆愚民主主義の方がいい。

機史上最強の内閣  室積 光 著



海辺の小さな町


ある青年が住み慣れた東京で受験せず、愛知県の大学へ進学し、知多半島と思われる海辺の小さな町で暮らした4年間を描いたもの。

宮城谷昌光と言えば、中国古代の専門家。中国古代ものと言えば宮城谷昌光以外の名前はそうそう浮かんで来ない。
そんな宮城谷氏が、日本を舞台にした現代の青春小説を書いているというのを聞き及んで早速、購入に至った。

確かに青春小説には違いないだろが、ずいぶんと良く出来た学生さん達なのだ。
今どき、こういう学生さんにに巡り合うことはそうそうないだろう。
学生というより書生さんという言葉がぴったりとくるような学生さん達だ。

下宿へ入ったその日に隣の部屋の同じ一回生と早くも友達になる。
クラシックが好きでかなりマイナーな曲でもすらすらと作曲家やタイトルが言えてしまう。
女性に対する視点も一昔前の少年のような純朴そのもの。

宮城谷さんの学生の頃ってこんな感じだったんだろうな、と思わせられる。

主人公は友人のすすめもあって写真にはまり出すのだが、その描写はこの作品が写真雑誌に連載されていただけあって、かなり専門的なところまで掘り下げられている。

実際に宮城谷氏そのものも本格的に写真にはまっていた時期があって、この本にも出てくるような写真雑誌の月例コンテストに応募し、賞も受賞したのだという。

写真がテーマだからというわけではないだろうが、文章が写実的で美しい。
風景が目に浮かんで見えるようにも思える。

それを持って宮城谷氏らしいという評に出くわしたが、私はそうは思わない。
中国古代を描いている宮城谷本からはこんなありありとした風景は見えて来ない。

宮城谷作品の新たな一面を見たような気がする。

海辺の小さな町  宮城谷昌光



レジェンド


自由の国アメリカの近未来がまるで中国のような情報統制独裁国家に!

全ての子供達は10才になると「審査」と呼ばれる試験を受けなければならない。
1500点満点のその審査で、1400点以上の高得点を取れば高級官僚でへの道が約束される。
合格ライン1000点を取らなければ、強制収容所送りになり、1000点から少し上だったとしても、それはかろうじて収容所送りにならなかっただけで世の下層階級で生き続けなければならない。

そんな試験で史上初の1500満点中1500点を獲ったのがジェーンという女の子。
飛び級で15才にして最高学府の勉学も終えてしまっている。

方や、その「審査」で落第した後、親からも死んだと思われるデイという少年。

賞金付きの指名手配中でありながら、軍事施設への攻撃やらの政府機関に対する強盗や襲撃を繰り返す。
行動は過激だが、決して死者は出さない。
計算されつくしている。あまりに華麗にやり遂げるため、逮捕は無理だろうと思われている。
エリート中のエリートのジェーンが、反乱分子のディを追う立場となって・・・。

「政府は国民の味方だ」と信じて来たエリートにとって、政府が群衆を取り囲んで銃撃する光景はどのように映ったことだろう。

作者のマリー・ルーは、天安門事件の時にはまだ若干5歳であったが、目の前で繰り広げられる惨劇ははっきりと目に焼き付いていると語っている。

民衆に銃を向ける国家とそれと闘う若者。

ありふれた設定かもしれないが、天安門事件を見て来た人が書いていると思うとそれなりの感慨がある。
ジューンとデイが交互に語り部となってテンポの良いこの本、なかなかに面白く一気に読みおおせること必至である。

レジェンド マリー・ルー著 三辺律子訳