プリンセス・トヨトミ
お好み焼き屋のオヤジだった親父がある日突然スーツを着て、「私が大阪国総理大臣 ○○です」なーんて言うのを横で聞いたら、息子はさぞや唖然とするんだろうな。
普段、酔っぱらってそんなことばかり言っているオヤジならともかく、堅物のオヤジだけになおさら。
この本を読むだいぶ前に映画の宣伝などを見てしまっていたのだが、結局映画は見逃したまま、先に本を読めて良かった。
大阪城というのは大阪冬の陣、夏の陣で焼け落ちた後、徳川は豊臣の痕跡を全てなくしてしまおうと、元の姿を消し去った後に徳川秀忠が新たに大阪城を全く別物として再建し、完成した後は徳川直轄の城とした。
大阪の町民は豊臣びいきで、そもそもの冬の陣の前の方広寺の因縁をつける行為も気に入らなければ、一旦講和した後に外堀を埋め尽くして再度、夏の陣で滅ぼしたやり方も気に入らない。
そんな大阪町民が、豊臣秀頼の遺児を預かり、こともあろうに新たに造営中の大阪城の地下に再建の場所を作ってしまう。
それからえんえんと400年。
大阪の人達はその秘密を守りぬき、豊臣の子孫を守り抜いたのだという。
なんとも痛快な話である。
明治維新の折りに大阪国は明治政府と条約を結ぶ。
それ以降、表には秘密にされているが条約の条項の元、国からの補助金という形で大阪国を維持し続けている。
そういう補助金の使い道に目を付けるのが会計検査員。
この話は会計検査院の調査官が実際の大阪国の議事堂を見て、その生い立ち、歴史を聞いた上でいかなる行動に出るのか、それが話の中心。
それにしてもこれだけ知っている地名ばかりの小説というのはなんと馴染み深いのだろう。
とても他人ごとと思えない気持ちになってくる。
作者は、万城目なんていう「20世紀少年」の登場人物みたいなペンネームjを使っているので、どんなふざけたやつなんだろうと思っていたら、なんとあの「鴨川ホルモー」を書いた人だった。
まぁ、あれはあれで充分にふざけていると言えばふざけちゃいるが。
口の軽い大阪人が400年以上もの間、一つの秘密を話さずにいることそのものが最も有り得ないっちゃ有り得ないが、辰野金吾という実在の明治の建築家、日本銀行本店だの東京駅だの・・・名だたる建築物を日本各地で作った人に、大阪国の議事堂を作らせるあたりやら、その地域の歴史が史実のままだったり、というあたりで若干ながらも信憑性を持たそうとしている。
それよりなにより面白いのは登場人物の名前。
検査するほうの会計検査院が、松平だの鳥居だのと徳川方の名字だとすれば、
方や大阪で登場する人の名字は
真田、橋場、大野、長宗我部、後藤、宇喜多、島、浅野、蜂須賀・・・。
それぞれ真田幸村、橋場は羽柴秀吉からだろう、大野治長に長宗我部盛親、後藤又兵衛、さらには一介の浪人にすぎない塙団右衛門の「塙」という姓の人まで登場する。
冬の陣、夏の陣などで散って行った侍たちの名を町人が名乗っていたわけはないのだが、その時代の本を読みふけった人間にはなにやら懐かしささえ感じてしまう本なのだった。