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希望荘


ペテロの葬列の杉村三郎が探偵としてデビューする。

四部作でそれぞれが独立した一篇一遍。
どこかでつながるのかな、と思ったりもしたが、それぞれが独立した短編だった。

死んだはずの人を見かけた。幽霊かどうかを調べて欲しいというのが最初の依頼。

それにしてもこの探偵さん、フットワーク軽いね。動くのなんの。
そんじょそこらの営業マンよりよっぽど稼働率が高いわ。

次の依頼は死ぬ間際に、自分は過去に人を殺したことがある、と匂わせる様な事を息子に言って世を去った老人の息子が、どうしても気になり、父の過去を調べてくれ、という。

三話目は、ペテロの葬列の一連の後、コンツェルンを飛び出した主人公が実家に帰り、そこで後に世話になる蛎殻オフィスというなんでも出来てしまう探偵会社の社長から頼まれごとをする。

自ら探偵事務所を開くきっかけになったのは言うまでもない。
ここでは戸籍の売買というのがキーなのだが、敢えて戸籍を買った人の目的が今一不明。
それにそても蛎殻オフィスさえあれば、世の中に探偵事務所なんて要らないんじゃないか、と思えるほどにこの事務所の存在は圧倒的だ。

四話目は、東日本大震災で行方不明者が相次いだことをうまく利用した犯人のトリックを暴く。

三話目の過去の思い出は、ともかくとして、残りの三話、杉村探偵、かなり積極的に動いているが、その報酬たるや仕事量に見合っているのだろうか。下世話な話だが・・。
いくら独身ぬいなって食わせる相手が居ないったって・・・。

まぁ、ていうような杉村三郎氏だから、みんなに愛されるんだろう。

希望荘 宮部みゆき著



売国


戦後、アメリカの占領政策にて、日本人が骨抜きにされてしまった、とは多くの方が述べているし、今、人気の昭和の政治家、田中角栄もアメリカの不興を買ってしまったがために、アメリカに嵌められた、と良く言われるが、ロッキード事件の経緯などを読めばそれも頷ける。

この本では、日本の国益を損なう事お構いなしで、アメリカ相手に情報を垂れ流し、情報や技術をアメリカの益となるように動いている日本の大物政治家を検察が検挙しようとする話なのだが・・・。

うーん。うなってしまう。

金のために日本の技術を売り渡すとしたら飛んでもないことだが、日本の国益かアメリカの国益かそれとも双方か、となると日本の過去の政策にはかなりグレーゾーンなものも多かったのではないか。
アメリカの益でもあるがすなわち日本の益でもある・・みたいな。

日本の国益を損なう事お構いなしでとなれば、ここで特捜検事に糾弾されるべきは、ロッキード事件の検事総長や検事達も国益よりも検察の威信を優先した、ということ出は同じようなもんだろ、

この本、特捜検事が主人公であるがもう一人、宇宙開発を夢見る若き宇宙開発研究者女性も主人公でもある。

交互にそれぞれの舞台で物語が進んで行くのだが、この二人、かすりはするが最後まで直接の接点が無いまま終わる。

ちょっと珍しい作りなのだ。

実はこの宇宙開発研究者女性が主人公になっている箇所、全く無くても、ストーリーとしては違和感無く読めてしまう。


売国 真山仁 著



コンビニ人間


芥川賞という賞、面白い作品は受賞出来ない決まりがあるのだろう、とばかり思っていたが例外が生まれた。
たぶん初めて芥川賞受賞作を読んで素直に面白い、と思った。

主人公は大学生時代にコンビニでアルバイトをはじめてから就職もせず、働きはじめた店でそのまんま18年間、コンビニのアルバイトを続けている女性。

彼女には自分ではごくごく普通だと思っていることが、世間の普通とちょっとずれてしまうという癖がある。

小さい頃、公園で死んでいる小鳥を見つけた時に、廻りの子供たちはみんな「かわいそう」という中で、一人彼女は「焼いて食べよう」と言い出す。
母から埋葬しましょう、と言われた時も父さん焼き鳥大好きなのに・・・・と彼女。

男子生徒が喧嘩を始めそうになり「誰か止めて」という叫びを聞いた彼女は、今にも喧嘩しそうな男子の頭を掃除用のデッキでぶったたく。
何故、そんなことをしたのか、の問いにはそれが一番手っ取り早く静かにさせる方法だと思ったから。

なんとも考え方がシンプルなのだ。
決して間違っていないし、最も合理的とさえ言えるのだが、世間の常識というフィルムで見た時、彼女はちょっと変わってる、という目で見られてしまう。

静かにさせる手立てが掃除用のデッキで良かったようなもので、もし、そこにナイフがあったら、どうしていたのだろう。
静かにするために一番手っ取り早いだろうと思い、刺しました。
となれば、ちょっと変わったでは済まされなくなる。

合理的でシンプルとはいえ、一歩間違えばそちらの世界に入って行きかねない危うさも合わせ持っている気がする。

彼女は自分は人から普通と見られていないことに気がついてからは人との関わりをなるべく持たずに生きてきたのだが、コンビニでバイトをする時に全てが変わる。

全てマニュアル通りにやっていればいいのだ。
初めて、人間社会で必要とされた。

そんな普通になったかに見えた彼女でも、三十半ば過ぎてもまだ結婚どころか、男付き合いが無い。就職もせずにバイトをしている・・。

学生時代の同年代から見れば、やはり変わっている。

そんな目から解放されるために打って出た策はアッと驚くものだったが、元々合理的な彼女にしてみれば驚くことでもなんでもない。

この本、読み物としての面白さ満載。

人が誰かの話し方を模写して行くことなどの視点も面白い。

何より興味深いのがコンビニというものの中の人間からの視点での描写。
実際に働いている人ならではの視点がいくつも。
著者自身、コンビニでの仕事を辞めたら書けなくなってしまう、というほどのコンビニ人間。

芥川賞、毎回、こういう本が選ばれるようになればいいのになぁ。