カテゴリー: マ行



太陽のパスタ、豆のスープ


本屋大賞を受賞した人の本って一通り読んでみたくなるので、古い順から読み始めてみたが、宮下奈都さんの傾向がだんだんとわかって来てしまった。

題材はそれぞれだが、なんかいつも主人公は自信喪失しているところから始まって、周囲に自信満々な人が居て、だんだんと自信を取り戻して行く、みたいな、割とそういう流れが多いように感じた。
まぁ、まだそれほどの冊数は読んでいないけれど。

この本での主人公、明日羽(あすわ)は、結婚式の案内まで出すところまで行っていた相手から唐突に婚約解消を申し入れられるところからスタートする。

全てに自信を無くしてしまった彼女に姉のような叔母から、今やりたいことをリストにして書き出してみろ、と言われる。それを「ドリフターズ・リスト」と呼ぶのだそうだ。

・髪を切る
・引っ越し
・鍋
・お神輿
・玉の輿

彼女のリストはその後何度も書き直したり、加筆されたりするのだが、
最初の三つは叔母や友人の協力もあって、早々に実現してしまう。

リストに「きれになる」と書いてはみたものの、「きれになる」とはどういうことなのかがわからない。

ある日、 彼女は偶然に行った青空マーケットの売り場で会社の同僚を偶然見つけてしまう。
あまりプライベートにまで立ち入って話をしたことが無いがお互いに「ちゃん」付けで呼ぶような間柄ではある。
職場では絶対に見られないような、明るいいきいきとした様子でいろんな豆について熱く語り、販売する彼女。

彼女は同僚がどうやって、「豆の販売」という生き甲斐に辿り着いたのか、気になって仕方がない。

それ以降、
彼女のリストには「豆」の一文字が付け加えられる。

さて、彼女はどんな豆を見つけるのだろうか。

太陽のパスタ、豆のスープ 宮下奈都著



スコーレNo.4


宮下奈都さんの初の書下ろし単行本。

本屋大賞を受賞した「羊と鋼の森」とちょっと似ているところもあるかな。

主人公は骨董屋(古道具屋の呼び方の方が合っているか)の長女。

三人姉妹なのだが、幼い頃からずっと妹にコンプレックスを持っている。
妹は自分よりはるかに可愛いのだ、こんな時なら妹はどうするだろうか、とそんな思いのまま大人になっていく女性。

そんな彼女が就職したのは輸入貿易商社。
就職した直後から、系列の靴屋に出向に出されてしまう。

靴の大好きな人たちの中で、一人宙に浮いた存在。

特に敵というわけではないが、彼女が初めて体験する誰も味方が居ない世界。

そんな彼女がフェラガモの靴を履いた時から変貌して行く。
「羊と鋼の森」の調律師がどんどん自信をつけて行くように。

父の店で知らず知らずに養われていた骨董ならぬ物を見る目。

父の店でで知らず知らずに養われていた物を見せる力。

店のディスプレイでその力を発揮し始めてから彼女は変わって行く。

自らは靴を愛していない、と思いつつも誰よりもその良し悪しの目は持っている。

前半はなんでそこまで自分に自信が持てないのかなぁ、というもどかしさばかりが続くが、後半で自分の思うようにやってみるようになってから、話はがぜん面白くなって行く。

いいなぁ。
こういう話。

自信をという宝のお裾分けをもらえそうな気がする一冊だ。

スコーレNo.4 宮下 奈都著



羊と鋼の森


2016年の本屋大賞受賞作。

なんかとっても美しい本だった。

過去、こういう美しいだけの本が本屋大賞になったことってあったっけ。

「村上海賊の娘」のようなわくわくするような躍動感があるわけじゃない。
「海賊とよばれた男」のような感動と勇気を読者に与えるわけじゃない。

ただ、美しい。

人間、天職に巡り合うほど素晴らしいことはない。
主人公はなんと17歳にして天職と巡り合ってしまう。
たまたま学校の体育館までの道案内をした相手がピアノの調律師だった。

後にわかることだが、その調律師は著名なピアニストから調律の指名を受ける様な人だった。

最初に出会ったその人の調律がどれだけ彼の心を打ったのか、ピアノを弾いたことがあるわけでも、音楽の素養があるわけでもない少年が、その人に次に会った瞬間には「弟子にして欲しい」とまで言い出してしまっている。

調律の専門学校を出た後にその師と憧れた人の店に入社するが、人の何倍も努力してもなかなか調律は上達しない。
いや、上達していない、と思い込んでいるだけなのかもしれない。

この話の中では音というものがいろいろな比喩で表現される。
調律という作業もまたいろいろな比喩で表現される。

正直、その比喩が本当に妥当なのかどうかはわからないが、その比喩の言わんとするところに共感してしまうし、そこにも美しさを感じてしまう。

調律という作業がこれほどに奥の深いものだとは思わなかった。

羊と鋼の森 宮下奈都著