カテゴリー: マ行



まほろ駅前狂騒曲


最高に楽しめる一冊。

今回の多田便利軒物語は、これまでの登場人物が勢ぞろい。

四歳の女の子を預る約束をしてしまった多田と子供嫌いの行天。

駅前で無農薬野菜を!健康野菜を!と拡声器で訴える団体。

その団体をつぶそうとする星にどんどん巻き込まれる多田便利軒。

無農薬だ!健康野菜だ!と訴える連中はかなりいかがわしい連中だったのだが・・・・。

バスが運行通りに走っているかどうかの調査に異様な執念を燃やす岡という老人。

とうとうバスジャックに突っ走ってしまう。

老人のバスジャックと言えば宮部みゆきの「ペテロの葬列」を思い出すが、そんな真面目なもんじゃない。

最後はみんな入り乱れての本当の狂騒曲になって行く。

なんといってもいつも最高なのは行天というキャラクター。

今回は行天の過去があらわになったりもする。

それにカタブツの多々にとうとう色っぽい話も出て来たりして。

笑いどころ満載の一冊でした。

まほろ駅前狂騒曲 三浦 しをん著



天使の柩


日本人の父親とフィリピン人の母親の元生まれた茉莉という少女。

小さい頃から父方の祖母に

「おまえはバイタの娘だ」

「なんて、いやらしい」

などと言う言葉を散々投げかけられて育ったのだった。

自分自身で自分を醜いと思っている。

その祖母の仕打ちに耐えられなくなったのか、母親はとうの昔に逃げ出し、そしてその祖母も亡くなり、父親と二人の生活になるのだが、この父親がこの頃にはもうおかしくなっている。

娘と顔を合わせない。

仕事から帰って来ると茉莉は自ら自室に入り、父は外側から鍵をかけ、中から出られないようにする。
朝、出かける前には鍵を開けてから出て行くので、監禁したいわけではない。顔を合わせたくないのだ。

だから、茉莉が風呂に入っている間は父は自室に籠り自室の鍵を閉める。

たった14歳の少女にどんな試練を負わせるのだろう。この作者は。

そんな生活をしているので同じ屋根の下に住みながら、父と娘は顔を合わすことが無い。

そんな異常な生活を激変させたのが、子猫を虐待する子供達から子猫を守った時に、子供達との間に入ってくれた歩太という自称画家との出会い。

学校にも家にも居場所の無かった彼女はとんでもないわるガキにつかまってしまうのだが、初めて出会ったまともな大人である歩太を脅すという人質を取られて、更なる深みへはまっていきそうになる。

彼女は、自分は醜く、穢れている、というのだが、顔も見せない父親のために毎晩夕食を作り、父親が自殺しないようにと心配し、全くの赤の他人である歩太のために自らの身体まで投げ出そうとする。

まさに天使の心を持った少女ではないだろうか。

天使の柩 村山由佳 著



桜ほうさら


上州だったか甲州だったかの方便で「いろいろあって大変やったねぇ」ということを「ささらほうさら」 と言うのだそうだ。

剣の腕もさほどではなく、犬に脅えて逃げたとのうわさがたつほど。
土いじりをし、庭で野菜を植えるなど、妻から言わせれば武士にあるまじき情け無き夫。ただ、謹厳実直だけが取り柄で誤った道に進むことだけはありそうにない。

そんな父。

そんな父があろうことか出入りの商人から賄賂を受け取った嫌疑をかけられ謹慎させられ、その謹慎中に自らの潔白を晴らすこともなく切腹してしまう。

賄賂のやり取りの証拠として店が出して来たのがまさに自分が書いたとしか思えないほどに自分の筆跡にそっくりな証文だったのだ。

その息子である主人公の笙之介。

江戸へ出て来て、町人の長屋に住み、貸し本屋から頼まれた写本業をやりながら、人の筆跡をそっくり書ける代書屋探しを始める。

それにしても江戸時代の武家にこんな家があるだろうか。

笙之介の母は、いくら位の高い家から嫁に来たとはいえ、夫をないがしろにし、事あるごとに息子には夫が情けないとぼやく。
笙之介の兄は剣の道を極め、母親には自慢の息子。
その兄もまた父を尊敬しようとはしない。
父と性格の似た笙之介は母から疎んじられる。

現代の家庭ならそこらにありそうな話だ。
「お父さんのようになりたくなかったら、勉強しなさい」なんてそこら中で言っていそうだ。

うだつのあがらない亭主を妻が馬鹿にし、エリートコースを貪欲に目指す長男を溺愛し、父に性格の似た次男は相手にすらしない。

さしずめ、江戸時代を舞台にした現代物語といったところか。

現代もまた「ささらほうさら」いろいろあって大変なのだ。

桜ほうさら  宮部みゆき著