月別アーカイブ: 5月 2009



心霊探偵八雲


Missingの次に心霊探偵と続くと、このコーザーもとうとう心霊読み物コーナーにでもなったのか、と思われる向きもあるかもしれない。

こちらはさほど重苦しい話ではありません。

八雲という名の大学生。生まれた出でた時から左目が赤く、生みの親でさえ気味悪がったという。その左目には死者の霊魂が見えてしまう。

美術部の学生が、片目の視力を失ってしまい、将来の画家への夢を断ち切られそうになった時に、その見えなくなったはずの片目に異界が見えるようになり、異界で見えるものを絵画にして行く、みたいな話がMissingにもあったが、あちらは重苦しい話だった。

この八雲という学生、その特異な体質を使って迷宮入り、もしくは事件にさえならず、事故で処理された事件の真相を次々に解決して行くという、どちらかと言うと楽しい読み物の範疇である。

死者の霊魂が見える。死者と会話が出来るということを書くだけでも十二分に重たいだろうに、軽快な会話、スピーディーな展開がその重苦しさを須らく打ち消している。

八雲という学生と同じ大学の晴香という学生との掛け合い、八雲と後藤という刑事との掛け合い。それだけでもじゅうぶんに楽しめる。

それにしても八雲君の浴びせる言葉は、少々きつ過ぎるんじゃないでしょうかね。
いくら相手が行為を持ってくれていたにしても、そこまで言われてまだ着いて来る春香という女性に寧ろ関心してしまいます。

心霊探偵八雲〈1〉赤い瞳は知っている 神永学 著(角川書店)



Missing


地方のとある高校。
生徒の大半は寮で暮らす。
学校という閉ざされた空間の中で起こる様々な怪異現象。

第一巻は「神隠しの物語」。一巻、一巻での読み切りものだとばかり思っていたら、そうではなかった。
全13巻、全てストーリーとして繋がっている。
結構な大長編だったのだ。

同じ高校生でありながら「魔王陛下」などというとんでもない呼称でと呼ばれる少年が登場したり、方や魔女という怪しげな高校生、はたまた、異界の話の感染を防ぐ為の黒服の政府機関の連中まで登場するにあたって、さすがにこれは、マンガチックな筋立てなんだろうな、と思っていたが、単にそれだけではなかった。
呪いだとか生贄だとかかなりオカルトの物語と言っても差し支えないのではないかと思うが、単なる恐怖心を煽るだけのオカルトものでもなかった。

この作者かなり民族神話、民族伝承に詳しい。
柳田国男の影響をかなり受けているのではないだろうか。

結構、いろいろな文献も漁ったのではないかと思うのだが、参考文献なるものは一切記載されていない。

その博識ぶりは魔王陛下と呼ばれる空目という高校生の口から仲間達に説明される言葉として開示されて行く。ある時は民間伝承の内容を引いて、ある時は海外の童話の内容を引いて、ある時は都市伝説といわれるような民間での口承で伝わったような類の話を引いて。まぁ、こういうのを博識というのかどうかはよくわからないが・・。

6巻の鏡の話の中だけでも鏡にまつわる昔からの言い伝えなどどれだけ登場することか。

魔女というこの高校生だけは全く得体が知れない。
幼い頃から人には見えないもにのが見え、それらと会話をする能力を持ち、親からも不気味がられる。それがどんな経緯で本当に魔術を操れる本当の魔女になったのか、その経緯は不明である。
経緯は不明でもその目的とするところは終盤になってだんだん明かされて行く。

この作者、かなり物知りであることはよくわかった。
しかしながらこの話、エンターテインメントとしての要素としてはどうなのだろう。

話が重すぎて、なかなかページが進まない。
楽しむ要素がどうも少なすぎるような気がする。
寧ろ人を楽しませるために書かれたものではないのかもしれない。

いずれにしろ、仮に映像化するとしたら、かなりえぐいシーンの連発になってしまうのではないだろうか。
ということは、それだけでも充分にオカルトということか。

Missing 神隠しの物語 甲田学人 著(電撃文庫)