月別アーカイブ: 12月 2009



チャイナ・レイク 


アメリカの一地方での新興のカルト教団をめぐる話である。
日本と欧米では宗教に対する寛容さはかなり違いがあるだろう。
日本人はその人が信じている宗教の内容、教義というのか?に対してまでそうそう口出しをしたりはしない。
ただ、自分が入信を薦められたら、お断りをするだけで、滅多に馬鹿にしてみたり、などはしない。
それは寛容というよりも怖いからなのかもしれないが・・。
いずれにしても春・夏の甲子園にでも過去結構な数の宗教の関係の学校が出場して来ているはずだが、それに違和感を感じる人は少ない。

欧米ではキリスト教以外は異教であるから、どうしても新興の教団と言ったってキリスト教から大きく離れるわけには行かないのかもしれない。

大きく離れるどころかもっと原理主義的なまでに熱烈なのが新興カルトとして度々登場する。

結構平気でその人達の目の前で、教義をからかってみたり、ジョークにしてみたり出来てしまうのは国民性の違いなのだろうか。

日本でも例外はもちろんある。
ハルマゲドンだったか、終末論を煽り、実際に予言が当たらないとなると、自らサティアンなるところに信者が籠もって化学兵器を製造し、東京の地下鉄にサリンという猛毒をばら撒いたあの教団である。

この小説に登場する教団も終末思想を唱え、聖書を引用しながら、自らその終末を起そうとする。
日本のあの事件をかなり参考にされたのではないだろうか。

ここではサリンでは無く、狂犬病ウィルスを用いようとする。
そのメリットは潜伏期間が永いため、犯人が特定されづらいこと。非常に致死率が高いこと・・などだが、読みすすめると結局なんでも良かったんじゃないのか、とも思える。

この教団、死者を冒涜し死者に鞭打つ。
エイズで亡くなった人の葬式に大勢でプラカードを持って現われ、その死を冒涜する。

どこまでされたら、いくら信じるのは勝手と言いながらも、その教義に反論したくもなるだろう。

「チャイナ・レイク」という地名は実在する。
そしてそこが航空開発基地であることもどうやら実際の話らしい。
そのチャイナ・レイクともう一つの舞台となるサンタ・バーバラももちろん実在する地名である。

だから信憑性があるか、と言えばそれはどうだろうか。
誰だってまともな人間ならちょっと取り合えないほどにその教義はボロボロでどうしようもなく薄っぺらい。

その教団という恐ろしい組織に対して立ち向かうのが弁護士でもありSF作家でもある主人公の女性。
この女性の勇気は凄まじい。

ただ少しだけ残念なのは、その恐怖の教団そのものへ妄信する信者達の圧迫感というか、集団の怖さというものがあまり伝わって来ないところだろうか。

小説の読みやすさから言えば登場人物をあまり多くしてしまうと読みづらいということを意識してなにか、何か事がある毎に登場する教団側の人間はほんの数人、毎度おなじみの顔なのである。
しまいには最初から数人しかしなかったのではないか、とすら思えてしまうほどに。

この作者、アメリカ人でありながらなかなかアメリカでは出版の機会に恵まれず、ずっとイギリスで出版してきたのだいう。
運よくアメリカで認められて出版したのがこの2009年の今年。
で、いきなりアメリカ探偵作家クラブのエドガー賞の最優秀ペイパーバック賞を受賞したのだという。
探偵作家クラブの賞というと探偵物のイメージを想像されるだろうが、決して探偵者ではない。
なかなか読み答えがあって読み出したらやめられない本であることは確かだろう。

チャイナ・レイク (ハヤカワ・ミステリ文庫) メグ・ガーディナー (著), 山西美都紀 (翻訳)



偽装農家


なんか小学校の教科書の副読本みたいな、薄い本でありながら、なかなかにして中身は濃いものがある。

農家は社会的弱者である。
農業は儲からない。
農家は貧しい。
こういう一般的な農家像をばっさばっさと切り倒して行く。

いや実際に真面目に農業を営んでいる人を切って捨てているわけではない。
営農意欲が全くないままに農地を単なる資産として抱えている「土地持ち非農家」に対して舌鋒鋭く切り込んでいる。

「農地」という土地資産があるだけで、補助金は舞い込んで来るわ。固定資産税も極端に免除されるわ。しかもそれらのかなりのパーセンテージが農業をまともに営んでいない。

農地、という名前のまま、産業廃棄物の投棄場所になっていたり、ショッピングセンターやパチンコ店に転用されるのをひたすら待つ転用待ち農地であったり。

何よりも問題は、そういう実態を農水省そのものが知りながらも見てみぬふりをしていることなのだろう。

そして、農家の票を選挙に利用する政党。
かつての自民党も農家の票を票田としていたが、小泉政権の構造改革で一変した。
小泉氏は「自民党をぶっ壊す」と言って総裁になったが、構造改革で自民党の票田を自ら放棄し、実際に自民党をぶっ壊した。

しかしながらどうなんだろう。
果たして、本当に単純に手当さえばらまけば、票に繋がるなどと考えているのだろうか。そこまで日本人は無節操か?もらうものならもらわにゃ損損か?
もしそうなら、いつからこの国の人たちはこんなに心が貧しくなったのか。
もしそうなら、自らの国の子供達の将来を売ってしまっているのに等しい。

そうではないだろう。
大勝利の原因はばらまき手当をもらう事が目的では無く、あの前政権をそのまま信任したくない、という人がそれだけ多かったということではないのか。

現政権は、手当のみを期待する人が多いとばかり思っているのだろう。
だからこんな史上最悪の愚脳内閣が出来てしまったではないか。
この内閣が将来にどんなツケを残しているのか。

次の参議院選挙で単独過半数を取るまでは嫌われることからひたすら逃げ続けるのだろうか。
では、それでもし単独過半数を確保したとして、一体その先で何を実現しようとしているのだろう。
さっぱり見えない。

話を本に戻すと、農地基本台帳というものが、ここは農地です。というものを表しているらしいのだが、これが全く機能していないのだという。

まさに消えた年金記録どころのレベルではないそうだ。

この農地基本台帳を整備し直すところから始めるべきなのだろうが、GPSの機能を用いればさほどの労力も無しに整備できるのではないか、と筆者は述べる。

そんな事業を農水省が早めに立ち上げていたら良かったのに・・。
案外、あの人気の事業仕分けでばっさりと切られていたかもしれませんが・・・。

偽装農家―たちまちわかる最新時事解説 (家族で読めるfamily book series)



アウト&アウト (OUT-AND-OUT)


なんか悪党パーカーの日本人版みたいな。
とは言えパーカーのように泥棒稼業をするわけじゃない。
なんとはなしに漂ってくる風貌や自信やらの雰囲気だけが似ている。

主人公は超大手ヤクザ組織の元若頭。
今は引退して探偵事務所の看板を前任者から引き継いでいる。

根っから怖そうな人でありながら、なんとも人の百倍ぐらい優しくもあり、気風のある人。
見た目はかなり強面なこの主人公は、両親を亡くして頼る先の無い小学二年生の女の子供を引き取っている。
その女の子がまたなんとも大人顔負けなほどに賢く、しっかり者で、強面探偵さんもその子にかかるとたじたじである。

探偵者の映画やドラマで、人質を取った犯人が「銃を捨てろ」と主人公に怒鳴るシーンが良くある。その時映画やドラマの主人公は必ずと言っていいほど銃を捨てるが、それがこの強面探偵さんにしてみると馬鹿なんじゃないか、と不思議で仕方がないのだという。
「主人公が犯人に銃を向けている」「犯人は人質に銃を向けている」
それで均衡が保たれているものを、なんでわざわざ自らその均衡をくずしてしまうのか、と。
だが、実際にはどうなんだろう。
そんな体験をしたことのある人はそうそう居るまい。
犯人は人質に銃を突きつけているのだとしたら、外れることはまずない。それに比べれば主人公が銃の名人で百発百中だったとしたって、きっちりと構えて狙いすましてのことだろうし、構えもせずにいきなり命中させられるほどの達人などそうそう居ないのではないだろうか。
となれば、均衡とは言え、かなり犯人に有利な均衡状態とも言えるのだから。

それでもやはり銃を捨てるやつは馬鹿だと思えるその発想がこの強面探偵の特性なのだろう。

このストーリーの中で登場する殺し屋側にもそれを追いつめようとする強面探偵の側にも悪人らしき悪人は登場しない。

唯一登場する悪人はかつての大物政治家の二世だったりする。
そこでやっぱりなぁ、などと思ってはいけない。いけない。
二世だって立派な人は大勢いるのだろうから。 た・ぶ・ん。

アウト&アウト 木内一裕 著 (OUT-AND-OUT アウトアンドアウト)講談社