月別アーカイブ: 11月 2013



最終退行


大ブレイクした半沢直樹の原作者によるもの。
もちろん舞台は銀行。
羽田というあたり一帯がことごとく赤字の中小企業ばかり、という環境の支店が舞台。
赤字企業に囲まれていても、本部からは他の支店同様に一律の成績UPを求めてくる。

ここの副支店長が主人公。
この人同期でTOPと言われながらも、思った仕事への配置転換をさせてもらえず、支店の融資係からからまた別の支店の支店の融資係へと支店のドサ廻りばかり、唯一の救いが支店を変わる都度少しずつ役付きが上がっていることか。

「最終退行」というのは最後に支店を退出すること。 最後に一人だけ残って残業を片づけ、各部屋の戸締りをし、消灯を確認し、施錠をして退出する。
この副支店長氏、毎日毎日が最終退行なのだ。

融資課長と副支店長を兼任し、毎日、現場にも出ながら、下から上がって来た種類の決済も行わなければならないので、普通の時間に終われるはずもない。
支店長がまた仕事をしないし、仕事が出来ない。
支店長から押し付けられた仕事をグチ一つこぼさずにこなす副支店長氏。

丁度不良債権処理に追われている頃の話なので、本部の意向は貸し渋りどころか貸しはがしにまで加速して行く。

この地域での優良得意先。
主人公氏をはじめ現場の人たちが永年良好な関係を築いてきた有料顧客企業。
そんな企業に今期赤字決算を出したからといって、貸している金を返せなどとは、現場レベルの感覚では有り得ない。
いや現場レベルでなくても有り得ないだろう。
赤字を出したところで会社がつぶれるわけじゃない。
寧ろ、貸しはがしをしてしまった方が、よほど相手の資金繰りを圧迫する。

そんな企業からの貸しはがしをためらっていると、支店長が出張って、一時返してもらうだけ、とだまして返却させてしまい、仕舞いに相手企業は不渡りを出し、その社長一家は離散。そしてその先社長が自殺するに及んで、この副支店長氏はこの銀行に見切りをつける。

そこからが反撃の始まりだ。

倍返しの半沢と似てなくもないが、こちらの話の方がかなりリアリティがある。

また、第二次戦の終わり間際に旧日本軍が海底へ隠したとされるM資金探し、M資金詐欺の話が彩りを添える。

最終退行  池井戸 潤 著



一路


世は幕末である。

もはや参勤交代でもあるまい、という時代なのだが、代々、お家の参勤交代の差配をする御供頭という家柄に生まれた主人公の一路。

参勤交代のお役目さながらに一路と名付けられたというが、まだ19歳にして一度もお供をしていない。
そこへ来て父の急死。

参勤交代の御供頭を命じられるが、何をして良いのやらさっぱりわからない。
ようやく見つけたのが、200数十年前の行軍録。

参勤交代の行列とはそもそもは、戦場へ駆け付ける行軍なのだ、とばかりに古式に則った行軍を差配する。

江戸時代も200数十年続けば、たるむところはたるみ切っている。

そこへ来て「ここは戦場ぞ!」とばかりに中山道の難所を駆け抜けて行く。

その行軍におまけがつく。
お殿様の命を狙うお家騒動の悪役達が同行しているのだ。

古式にのっとった行軍も面白いし、お殿様という立場も面白く描かれている。
決して家臣を誉めてもいけないしけなしてもいけない。
「良きにはからえ」と「大儀である」だけじゃ、名君なのかバカ殿なのか、わからない。

ここのお殿様は蒔坂家という別格の旗本で大名並みのお家柄らしい。
同じような家格を例にあげると赤穂浪士に打ち取られた吉良上野介の家柄などがぴったりとくるのだそうだ。
バカ殿かどうかは読む進むうちにわかってくる。

上下巻と結構な長編ではあるが、読みはじめればあっと言う間に読める本だろう。

ただ、惜しむらくは浅田次郎作品にしては珍しく、悪役が完璧に悪役そのものなのだ。

浅田次郎という人の書くものはたいてい、悪役を演じさせながらも最後にはその人の止むにやまれぬ事情などが明らかになって、ぐぐっと涙を誘ったりすることが多いのだが、この作品に限っては、悪役は最初から最後まで悪役のまま。

まぁ、浅田さんにもそういう気分の時もあるのでしょう。

一路(上・下巻)  浅田 次郎 著