呪文


とある地方のさびれていく一方の商店街。
新規の出店はあるので全くのシャッター商店街というわけではないのだが、その新規の出店がまた、長続きしないのだ。
半年やそこらで店主が夜逃げするケースも。

そんな中商店街の中でも若手のホープと見做され、一定の客層を掴んでいる居酒屋の店主。
その居酒屋へクレーマーが現れる。クレーマーとこの本では書かれているが、実際にやっていることはクレームではなくゆすり、たかりだろう。
私の知っている限りの店ならほとんど、この客の初っ端の態度、物腰だけでお引き取り願っているだろうに、この店主、結構言いなりのサービスをした上で、かなりあくどいいちゃもんをつけられる。
最後は警察まで呼んで一件落着かと思いきや、このゆすり野郎にネット上で店や商店街全体をターゲットにあることないこと書きまくられて、その結果、商店街全体に閑古鳥が鳴く。

このゆすり野郎に堂々と立ち向かった店主。ここまでは良かった。
この商店街の良さを知ってもらおうとネットで呼びかけた会の参加者へ演説をぶつあたりから、なんか変なムードになっていく。
いい客であるためにはどうしたらいいか、自分でできることは何か考えてみようみたいな、そりゃ筋がおかしいだろうと普通なら思える話をはじめる。

その会の発展系が「未来系」なる組織。
その商店街のためになることをやろう、という主旨だったはずなのだが、商店街の店に不平を言う客は悪い客だとばかりに追い出しにかかるかと思えば、いつの間にか自分をクズだと思う人間の集まりになっているし。

「クズ道とは死ぬことと見つけたり」って葉隠武士道の武士がクズにされてしまってるし。
世の中の大半の人が実は死にたがっているっていうのが前提で、だからクズは皆しななきゃならないなんて思想に簡単に共鳴していく人間がぞろぞろ現れるわけないだろうに。
実際の葉隠武士道は自殺のすすめじゃないよ。いつでもそのぐらいの覚悟を持てという意味であって、クズに置き換えられて、クズの自殺願望に使われるような言葉じゃないだろう。

商店街への意見を封じるにしろ、クズが自殺願望者を募ろうが、それが商店街の未来にとって良かろうはずもない。

そんなんじゃ、ますます量販店に客を持って行かれるんだろう。

なんにせよ、気持ちの悪い話だった。

呪文 星野 智幸 著