月別アーカイブ: 5月 2018



最後の医者は桜を見上げて君を思う


三人の医者が登場する。

熱血派の福原という医者。
病とは闘わなければならない。
少しでも躊躇する人が居れば、明日への希望を熱く語り、どんな難病でも、どんなに生存確率の低い病であっても、共に病と闘って行きましょう。と元気づける。

方や桐子というもう一人の医者は、反対の立場。
患者に対して「死」というものを受け入れてはどうか、と話す医者。
余命○ヶ月ということも平然と言い渡してしまう。
人間どのみち、いつかは死ぬんだ。
病気は闘うものではなく、受け入れるもの、人それぞれに個性があるように、自分の持って生まれた個性だと思って病気も自分の一部だと思って病気と共に過ごす、という生き方もありますよ。と・・・・・・・・・・

おそらくケースバイケースなのではないか、と思うのだが、双方かなり極端なのだ。

とある会社員は、昨日まで会社の大事なプロジェクトを担っていたのが、白血病が判明し、急遽入院、手術。
で、がん細胞を退治するために投薬されるのは、がん細胞を退治するだけでなく正常な細胞も含めて丸ごと退治する、というもの。髪の毛は抜け落ち、皮膚も老人のようになりながら、次の治療へ行くかどうかの判断は常に患者に迫られる。
で、成功の確率は、○○%、再発の可能性は○○%・・・。
悩みぬいた彼は桐子を訪ね、相談に乗ってもらい、桐子の考えと真逆の身体をボロボロにしてでも闘う方を選択する。

とある女子大生は医科大学に入学した途端にALSという治療法の無い難病にかかってしまう。
彼女は自宅での治療を選択する。
自分の力で歩く事はおろか、まともに話すことさえ出来なって行く。
見舞いに来たいという友達とも会いたくない。
死にゆく彼女の親の一言一言には涙をそそられてしまった。

もう一人の医者、音山という男は、二人の医者ほどには物事を割り切れないタイプ。
ちなみに三人は同じ医科大学の同級生である。

その音山が手術をすれば治るかもしれない病でありながら手術を拒否しようとする。
その友人の判断に桐子はどんなアドバイスをするのか。
友人を前にして持論を貫けるのか、そこらあたりがこの話のクライマックスかもしれない。

いずれにしてもそれぞれの病気の進行具合によって医者のアドバイスも変わるだろうとは思うが、上の二人はほとんどぶれるところがない。
個人的には桐子医師の考えの方が好きではあるが、果たして自分の愛する人がその立場になった時に、彼の意見に同調出来るかどうかはわからない。

今後、IPS細胞の研究やメッセージ物質の研究などでどんどん治らない病気も治る病気に変わって行くかもしれない。
そうなった時にこの頑なな医者たちは、特に桐子医師は変わるのだろうか。

最後の医者は桜を見上げて君を思う 二宮 敦人著



死の淵を見た男


東日本大震災、あまりに多くの死者をだし数多くの不幸な出来事が起こった未曾有の大災害だが、未だまだまだ先が見えないのが福島第一原発だろう。

総電源消失。
これのもたらした悲劇はあまりにも大きい。

この未曾有の危機の中、自らの命を顧みず、果敢に立ち向かった男たち。
闘ったのは吉田所長だけではない。
当日の当直長だった人。またその日非番だったが駆け付けたその先輩の人たち。

現場は明かりすらない。真っ暗闇。
通常なら制御版が原子炉の状態を教えてくれるはずなのだが、制御版も真っ暗なまま。
まさに手さぐり状態。

そんな状況、想像できるだろうか。
そんな暗闇に中、彼らは何度も真っ暗闇の中、手探りで原子炉へ向かおうとする。

原発事故のことを書いた本は何冊か読んだが、こんな心を揺さぶされるれる本には出会わなかった。
読めば読むほど、菅というあの時の総理大臣と言う役職にいた男への憤りが湧いてくる。
現場のプロがプロとして最善を尽くそうと命がけで行っている。
それをなんで東工大を出たということだけで自ら専門家気取りしたどシロートが口を挟もうとするのか。

自らのパフォーマンスだけのために、あろうことか国の最高指揮官の立場にある男がヘリで現地へ赴く。
ジャマをしに行っている以外の何ものでもない。

決死隊を送り出して、彼らからの連絡が途絶え、一時全員行方不明の状態になった時、吉田所長は、もう生きてここを出ることはないだろう、と覚悟を決めたという。
その後、全員無事であることが判明するのだが・・。

決死隊が何度もトライしようとしても近づく事すら容易ではない状況の中「ベントを何故やらないんだ!」

この男には、現場へのいたわりとか思いやりだとか、ねぎらい、というものが湧いてくる素地が全くないのだろう。

習近平相手に散々ペコペコしていた男が、いざ相手が変わればさんざん怒鳴り散らかす横柄な男になる。

全く最低のリーダーを最悪の時に持ったものだ。

そんな最悪の上がいる中、現場の人たち、自衛隊員、消防の人、出来る限り最善の事をやってくれた人たちのおかげで東日本は無事で済んだ。

無事で済んだとはいえ、第一原発はまだ片付いていない。

チェルノブイリ式の石棺で固めてしまうなり、なんらかの手立てで早期に終息を迎えて欲しいものだとつくづく思う。

死の淵を見た男 -吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日-門田 隆将著