読み物あれこれ(読み物エッセイです) ブログ



鹿の王


よくぞ、こういうスケールの話が書けるものだ。
ある王国が大きな帝国軍に攻められて侵略される。
侵略者たちは、王や王家の存続や許したものの、辺境の民たちを全く別の辺境の地へ移住させる。

全くの架空の世界なので、何かに置きかえてみよう。
日本が戦争に負けた後に天皇陛下や天皇家は維持され、その地位も名誉も保障されるが、辺境の民はそうではなかった、みたいな。
四国の辺境の民は(四国そのものを辺境だと言っているわけではない)北海道へと移住させられ、九州の辺境の民はアラスカへ移住させられ、北海道の辺境の民はハワイへ移住させられ、みたいなことをバンバンされたらたまったものじゃないだろう。

この侵略された王国(アカファという)には、かつてその地を支配していた、もう一つ前の別の王国(オタワルという)があり、伝染病の蔓延により、王国を滅ぼし、王国の支配権をアカファに譲った、という歴史がある。

国の支配権を譲るなどという例は現実の歴史上知らないが、この民族は自身の国など持たなくても、国などどこの民族が支配しようとも、優れた技術さえ伝承していれば、それなりの立場で優遇される、という考えのようで。アカファと言う国が支配される側に廻っても、何ら困らずそこそこの地位を保っている。

イスラエルという国を持つ前のユダヤ人のような位置づけか。やはり、ちょっと違うか・・。辺境の民たちになるとそれぞれの民族性がまた異なり、食べ物、習慣、もちろん外見も考え方も違う。

本の中で登場する各種の固有名詞についた漢字には普通なら全くそうは読めないルビがふられているのが結構つらいが、半ばからほとんど気にしなくなっている。
音読せよ、と言われているわけじゃないんだから、好きなように読ませてもらう。いちいちルビのふったページを探してもどったりなど、絶対にしない。

黒い狼のような動物に噛まれると何かのウィルスが伝染するのか、皆死に絶えて行く中で一人、生き残った男が主人公。

その伝染病のワクチンを作ろうとする医師がもう一人の主人公。

この黒い狼のような動物の人間に対する襲撃とそのウィルスそのものは、自分の住み処を追われた辺境の民による復讐である可能性がだんだんと高くなってくる。

それにしてもよくぞ、ここまで架空の民をいかにもどこかに存在していたんじゃないかと思わせるほどに筋書立てて話が作れるものだ。

この本、昨年の本屋大賞受賞作。

やはり本屋大賞受賞作にははずれが無い。

鹿の王 上橋菜穂子  著



太陽のパスタ、豆のスープ


本屋大賞を受賞した人の本って一通り読んでみたくなるので、古い順から読み始めてみたが、宮下奈都さんの傾向がだんだんとわかって来てしまった。

題材はそれぞれだが、なんかいつも主人公は自信喪失しているところから始まって、周囲に自信満々な人が居て、だんだんと自信を取り戻して行く、みたいな、割とそういう流れが多いように感じた。
まぁ、まだそれほどの冊数は読んでいないけれど。

この本での主人公、明日羽(あすわ)は、結婚式の案内まで出すところまで行っていた相手から唐突に婚約解消を申し入れられるところからスタートする。

全てに自信を無くしてしまった彼女に姉のような叔母から、今やりたいことをリストにして書き出してみろ、と言われる。それを「ドリフターズ・リスト」と呼ぶのだそうだ。

・髪を切る
・引っ越し
・鍋
・お神輿
・玉の輿

彼女のリストはその後何度も書き直したり、加筆されたりするのだが、
最初の三つは叔母や友人の協力もあって、早々に実現してしまう。

リストに「きれになる」と書いてはみたものの、「きれになる」とはどういうことなのかがわからない。

ある日、 彼女は偶然に行った青空マーケットの売り場で会社の同僚を偶然見つけてしまう。
あまりプライベートにまで立ち入って話をしたことが無いがお互いに「ちゃん」付けで呼ぶような間柄ではある。
職場では絶対に見られないような、明るいいきいきとした様子でいろんな豆について熱く語り、販売する彼女。

彼女は同僚がどうやって、「豆の販売」という生き甲斐に辿り着いたのか、気になって仕方がない。

それ以降、
彼女のリストには「豆」の一文字が付け加えられる。

さて、彼女はどんな豆を見つけるのだろうか。

太陽のパスタ、豆のスープ 宮下奈都著



スコーレNo.4


宮下奈都さんの初の書下ろし単行本。

本屋大賞を受賞した「羊と鋼の森」とちょっと似ているところもあるかな。

主人公は骨董屋(古道具屋の呼び方の方が合っているか)の長女。

三人姉妹なのだが、幼い頃からずっと妹にコンプレックスを持っている。
妹は自分よりはるかに可愛いのだ、こんな時なら妹はどうするだろうか、とそんな思いのまま大人になっていく女性。

そんな彼女が就職したのは輸入貿易商社。
就職した直後から、系列の靴屋に出向に出されてしまう。

靴の大好きな人たちの中で、一人宙に浮いた存在。

特に敵というわけではないが、彼女が初めて体験する誰も味方が居ない世界。

そんな彼女がフェラガモの靴を履いた時から変貌して行く。
「羊と鋼の森」の調律師がどんどん自信をつけて行くように。

父の店で知らず知らずに養われていた骨董ならぬ物を見る目。

父の店でで知らず知らずに養われていた物を見せる力。

店のディスプレイでその力を発揮し始めてから彼女は変わって行く。

自らは靴を愛していない、と思いつつも誰よりもその良し悪しの目は持っている。

前半はなんでそこまで自分に自信が持てないのかなぁ、というもどかしさばかりが続くが、後半で自分の思うようにやってみるようになってから、話はがぜん面白くなって行く。

いいなぁ。
こういう話。

自信をという宝のお裾分けをもらえそうな気がする一冊だ。

スコーレNo.4 宮下 奈都著