読み物あれこれ(読み物エッセイです) ブログ



暦物語


この本はちょっといただけない。

西尾維新にしてはありえないぐらいにひどすぎる。

西尾維新の本の中でもこれまで何度もチンタラ展開しているなぁ、とか、なかなか進展しないなぁ、この話、とか、極端なものではこの前半部分全部無くてもストーリーとして成り立つよね、みたいなことは往々にしてあったが、そりゃ読んでいる方にすれば、次の展開、次の展開、とうながしたくもなるのだが、じらしてじらして、またそのじらしのどうでもいいところが結構面白かったりして、まぁなんだかんだと言いながらも楽しませてもらっているのでOKなのだろう。

ここ一年を振り返ったから暦物語なのか、阿良々木暦だから暦物語なのか、おそらく両方の意味なのだろうが、あの春からの出来事ならめぼしいところはすべからく本編に書かれているはず。
今さらそのおさらいをしても仕方がないし・・。

だから、ささいな小さな小さな話小さな話を4月5月と月に一つずつ十二ほど。

小さくまとまった話。他の小編小作家なら、まぁまぁの評価をもらうのかもしれないが、こんなつまらない話を西尾維新に期待している人はいないだろう。

本人が積極的に書いているとは思いづらい。

悲鳴伝の続きの悲痛伝、悲惨伝で四国にのめり込んで四国参りをしている作者に、なんとか最終版までのつなぎを!と編集者が無理矢理に書かせたような光景が目に浮かんでくる。

もし、そうだとしたら、編集者も余計なことをしたものだ。

こんなものを世に出すぐらいなら、読者をひたすら待たせておいた方がはるかにいい。

暦物語 西尾 維新 著



悲痛伝


悲鳴伝の続き。

悲鳴伝そのものは一冊で一応完結しているので、続きがあるのかは微妙なところだと思っていたが、やっぱり地球からのメッセージを受け取ったままでは尻切れトンボだし、続いたか。

でもこの続き方はちょっと違うぞ!

四国全土の人が全員失踪!

またまた極端な!前回は地球に住む人類の1/3が突然死んでしまうという大いなる悲鳴からのスタート。
全地球の1/3などという規模から言えば四国四県は小さなものかもしれないが、日本人にとってとてつもないどでかい規模だ。

その四国に住む人とは誰とも連絡が取れない。人が生きているのかさえわからない。

で、単身四国へ乗り込む指令を受けた空々空。

上陸した香川県で、なんと!あろうことか魔法少女と遭遇する。

彼女は四国で生き残っているうちの一人で、どうやら生き残るためにはルールが有り、そのルールとは「やってはいけないこと」つまり「それをやったら死ぬ」ということをしないで回避すること、のようなのだ。

どこに地雷があるのか、地表からは全くわからない地域を地雷探知機も地雷探知犬も何もない手探りで地雷回避しながら歩け、というようなルール。

止むにやまれぬ事情があったにせよ、魔法少女のコスチュームをはぎ取って、着ている姿を別の魔法少女に見つかって変態扱いされ、亡くなった魔法少女の下着の中をまさぐっている最中を別の魔法少女に見つかって、さらに超弩級の変態扱いをされて・・というような展開。

この「悲痛伝」、結構評判悪いですね。
これだけページを費やしておいて、全然進展しない。冗長だ・・・。

確かに四国へ上陸してほとんど進展していないけれど西尾維新には往々にしてあること。まだ楽しめるだけいいじゃないか、となどと思うのですが。。。。

ただ、本来の対地球の話からはかなりはずれて来ているようには見えますねぇ。

悲痛伝  西尾維新著



ブラックボックス


自分達で村を作って農業したり、東京湾に魚を呼び戻そうとしたり、無人島を開拓したり、ということをやっている日曜日のテレビ番組がある。

その番組の中で「0円食堂」という企画がある。
0円、即ち放っておけばゴミとなってしまうものを材料に料理を作ろう、というもので、食材の余りやら、見た目が悪く売り物にならない野菜やらを0円でもらって来て、食材に使って、おいしい料理を作ってしまおうというものだ。

地域の道の駅なんかで売られている食材を見て、作っている工場などにアポ無しで突然訪問する。
それまでにもこの番組、ガソリン無しのソーラーカーで日本を一周するとかで、その道々で、食品工場などいくらでも訪問しているのだが、偶然訪れたように編集しているが、それらがいかに周到にアポイントを入れていたものか、がよくわかる。
アポ無し訪問に対する不審のまなざし。それから徐々にテレビクルーを連れた有名芸能人が来たのか、と態度が豹変していく。

実はアポ無しで食品工場へ訪問するなんて、そのうちトラブルになるんじゃないかと実はヒヤヒヤしながら見ているのだ。
ミートホープの様な例は稀だろうが、もっと強い小さなことを大目に見ているところは多かれ少なかれあるのではないだろうか。
いきなり来たテレビクルーなんかに撮られてしまったら、逆ギレされかねない。
ほとんどの食品工場は衛生第一、安全と安心をお届けするのだろうが、それでも自社で作った惣菜などは絶対に食べませんよ、などという話は結構こぼれている。

衛生管理に徹すること、これは日本の食材提供者達の必須命題なのだろうが、この物語に登場する食品達はどうなのだろう。

海外からの研修名目で来日した女子が夜通し働くサラダ工場。

黄色い完全殺菌の液体に浸された野菜。ツヤ出しのための薬品などを用いると普通、一日でしなびてしまうはずの野菜達が2~3日売れ残ってもしなびることなく、テカっている。永年ここで働いているベテランパートは、ここのものを食べたら死ぬよ!自分の孫には絶対に食べさせない!などと後輩にしゃあしゃあという。

このレベルでも相当だが、案外我々も口にしているのかもしれない。

地産地消。安全で農薬を使わず、天候にも左右されない農業。
大雨、暴風雨、強風、日照り、害虫・・などの幾多の自然、天候の気ままに左右される農業はもはや生産をするというよりもバクチをしているようなもので、こんな状態では攻めの農業など出来ない。
キチっとした生産計画に基づいて必要な受注分は必ずその日にお届けする、これでなければ、農業に未来はない、という素晴らしい理想を掲げたに見える法人による完全工場の農場。

はやりの有機農業と言ったところで、隣の農家が農薬を散布すれば農薬は交る。
自然の肥料のつもりがその肥料に使う生ゴミに農薬の入った野菜くずが交れば、検査結果で、無農薬の烙印を押してもらえないかもしれない。
それに何より有機農業、無農薬農業は高くつく。

そんな問題を外の世界から完璧に切り離した完全滅菌の工場生産で解決しようという。
太陽の光は使わない。
強すぎたり、曇ったりに左右されないように。
LEDのライトが24時間野菜を照射する。
完全滅菌のため外の菌は一切入り込まないようにする。

その工場で作られた野菜や野菜を使った食材やらがその地域を独占していく。
ファミリーレストランの店はもとより、学校給食も、そして病院の給食も・・。

絶対安心安全の食材が食べられているはずのその地域で何故か子供達に次々と発生するアレルギー。
命を落とすケースも出てくる。

しかし役所が定めた安全基準には完璧に合致している。
叩かれるはずがない。

主人公の女性は深夜勤務で日本人のパートとしては唯一、ファイリピーナやペルー人や中国人の研修生という名の労働者と共に働き、彼らの身に起きたことを見て危険を察知する。

シロウトの我々から考えても無菌状態だの、太陽の光に当てないだのと、それだけでもいかがわしいし、不健康なシロモノだ。
無菌状態でしかもLED光のみしか浴びてないので、あまりに無味なので、出荷前にこれまたナノテクノロジーレベルの味付け材が浴びせられる。

なんだか攻める農業に水を差すような話だが、この深夜勤務での食品工場でのあり様などは、リアリティ満点で実際に体験せずにここまで書いたとしたら凄い想像力と言うしかない。

ただ、残念なのはその会社をバックで支援するのは保守党議員であったり、その保守系の市長であったりする。
なぜ、そんな政治色を盛り込む必要があるのかなぁ。
せっかくのお話なのに、そんなところでしらけさせて欲しくは無い。

この物語では会社側に悪意があったことになっている。
会社側は海外の研修生を劣悪な環境で安くこき使い、会社の悪い噂は封印し、地元農家を騙し、消費者も騙し、尚且つ工場長は海外から来た若い女性にセクハラしまくる。そんな悪い会社に描かなくったって、この会社の謳い文句である「本当に日本の農業の未来を考える」会社だったとしたら、どうか。
彼らはこのやり方なら、アフリカの砂漠のまん中でさえ農業が可能。世界の農業を変えると豪語するが、善意ある会社だったらもっと怖くはないか。

太陽の光も浴びない、無菌状態の野菜などそんな不健康なものを人類が食べはじめたらどうなる。
幼い頃から食べ続けていたら、それこそ菌に対する抵抗力の無い子供に育ってしまうのではないだろうか。

無菌ほどこわいものは無い。

ブラックボックス 篠田節子 著