読み物あれこれ(読み物エッセイです) ブログ



下妻物語


先日レンタルビデオショップで深田恭子・土屋アンナが主演の映画「下妻物語」を借りた。

だいぶ前の作品だが、面白かったので原作の小説も読んでみた。
主人公はロココの時代のフランスに生まれたかったという17歳、桃子。

ロココは、バロックというとてもお堅い文化が弾けた後に台頭してきた文化である。
実用的や合理的だとかいうことを主軸としていない文化で、美しくて可愛いならそれでいいし、楽しいならなんだって良いのだ。

快楽主義なこの時代は、軽薄で不真面目な文化だったと言われることもしばしば。

華やかなフリルやレースのついた服、パニエで膨らませるスカート。
桃子はロココの精神を受け継いだ、ロリータファッションをこよなく愛している。

お気に入りのボンネットに穴が開けば、その穴に一生懸命かわいらしい刺繍をほどこして使い続ける。
ひとつひとつのロリータアイテムに愛着を持ち、大事に使い続けている。

服に穴が開けば捨ててしまい、流行が過ぎれば飽きてしまう我々は、見習わなくてはならないところがありそうだ。

そんなロココに夢見る桃子だが、現実は兵庫県尼崎出身で、今住んでいる場所は茨城市下妻。

「今が楽しければそれでいい」というロココの精神を貫く彼女だが、それはただの自己中心的な性格でしかなく、友達は一人もいない。

そんなある日、桃子とは見た目も中身も対照的な下妻のヤンキー、イチコに出会う。
最初はイチコに連れられて、嫌々行動を共にしていた桃子。
自分の幸せにしか興味のなかった桃子が、イチコに振り回されているうちに、次第にイチコの為、人の為に行動するようになっていく。

その姿があくまで「さりげなく」描かれているのが、この作品の魅力かもしれない。

ロリータとヤンキーという異質な組み合わせの、コントのような面白さだけでなく、人がそれぞれ持つ性質を深く掘り下げた作品でもあるようだ。

下妻物語 嶽本野ばら 著



何者


朝井リョウという人、初の平成生まれの直木賞受賞者で、本作がその受賞作品。

3回生の終わりから始まる大学生の就活が描かれる。

学生時代から書き始めた人でつい昨年まではまだ学生をやっていた人だけに、ここに書かれていることは今日の就活の実態そのものなんだろう。

名刺を作り、大学でのサークルでの役職などを肩書きに載せ、大学OBの社会人と名刺交換をしてそれを人脈と呼び、そこからつながった就職担当者のメールアカウントから検索してSNSアカウントを見つけ、twitterで就職担当者に向けての情報を発信しようとする学生。

そうかと思えば、就活に何の意味がある?とばかりに開き直り、就活しない宣言をする人。
そう言っていた当人を別の就活学生が企業の試験会場で見かけたりする・・。

主人公君の同居人がおもしろいことを言っている。

名前も知られた大企業の内定をもらうことだけで、即、神様の如く尊敬を得られてしまう。
俺は単に就活という活動が得意だっただけなのに。

数学が得意、水泳が得意、料理が得意、陸上が得意、サッカーが得意、人それぞれに得意不得意があるだろうに、就活が得意なやつはそれだけで神様のようなまなざしを向けられ、不得意なやつは全否定されるっそれってどうなんだ、と。
本文を正確には覚えていないがそんな主旨の言葉だ。

内定をもらった人ももらってない人もまだまだ何も始まっちゃいない。
スタートラインにさえついていない。
何者にもなっていない。
それに気がついた彼は偉い!と思えてしまうほどに、それだけが人間の価値と思っている人があまりに多すぎる。

この本、就活のことを柱に置きながら、twitter、facebookといったSNSに依存する今日の学生のコミュニケーションの取り方というものにもスポットをあてている。

彼らは何故、誰かとあんなにつながっていたいんだろう。

twitterをはじめSNSで発信される言葉など、生身で話す言葉と比べればなんと表面的で薄っぺらいものか、彼ら自身が一番よくわかっているだろうに。

何者 朝井リョウ



日露エネルギー同盟


今年(2013年)の1月に出版された本。
安倍首相が誕生して一ヶ月経つか経たないかの時期に出版され、その後の安倍政権の指南本にでもなったのではないか、とすら思えるほどに事実がその後をなぞっている。

タイトルこそ、日露エネルギー同盟だが、本書の大半はアメリカ、欧州、中国のそれぞれの危機、今後の心配事にページが割かれている。

アメリカでのシェールガス革命以降、もはやアメリカは中東の石油に依存する必要がなくなる。
となれば、アメリカは中東から徐々に距離を置き始めるのではないか。
ならばアジアに軸足を移すかと思いきや、アジアからも手を引き、アメリカは世界の警察であることをやめてしまうのではないか。
アメリカはかつてのモンロー主義ならぬ新モンロー主義に走るのではないか。

中国は成長が鈍化し、急成長で維持していた国内の不満を対外に向けるためにも、南シナ海、東シナ海での緊張状態をもっと高めるのであろう。
今後は、もはや戦争も辞さずの構えで来るだろうから、一触即発の危機は常にある。
アメリカのことも中国のことも複数の著名な方、著名な新聞の記事なども引用しながら説明されている。

このあたりのことについてとなると、以前、中国については誰よりも詳しいと言われる石平氏にお話を伺ったことがある。
石平さん曰く、尖閣周辺の緊張は今後何年も何年も続くでしょう。
中国は一触即発のギリギリのところまで、意図的にやってくるでしょう、
習近平は軍に対しても国内メディアに対しても強気の発言を続けるでしょう。
でも、一線を超えることは決してしませんよ。
そこでしくじったら習近平の立場がなくなるどころか、共産党一党支配の体制そのものも崩壊してしまうでしょうから。

と、緊張は続いても戦争にはしない、というご意見だった。

いずれにしろ、アメリカが中東から完全に引くとなると、ホルムズ海峡を通る原油に依存する日本に心配事が増える。

中東各国も石油の国内消費が増えつつあり、輸出一辺倒ではなくなってくる。

中国の覇権主義に対抗するための防波堤としてもその周辺国と緊密な関係を築く必要がある。

その中でも最も重要ななのはロシアだ、と。

そして、石油からガスへとエネルギー源が変わっていくのは、もはや世の趨勢である、と。
日本は樺太から北海道を経由して日本国中に建設された高速道路網を使ってパイプラインを建設すべきだ、と。
筆者の提言は続く。

安倍政権は発足直後に自ら東南アジアを歴訪し、GW期間中主要閣僚は東南アジア、自らはロシアへ赴き、プーチン大統領と会談。
2プラス2の立ち上げまで話を展開させてきた。

ロシアも実は中国との間でウラジオストックを巡って領土問題を抱えているのだ。

なんだか、ここまで符合してくると、この著者、ひょっとして安倍政権のブレーンにでも入ったのではないか、とさえ思えてくる。

もともと経産省から内閣官房へ出向した経歴を持つ人だ。
あながち有り得ない話ではないかもしれない。

日露エネルギー同盟 藤 和彦 著