読み物あれこれ(読み物エッセイです) ブログ



リカバリー・カバヒコ

新築分譲マンションに住む人々が、近くの公園にあるカバの遊具に悩みを打ち明ける話が5編、収録されています。
「奏斗の頭」「紗羽の口」「ちはるの耳」「勇哉の足」「和彦の目」

カバヒコと呼ばれるそのカバの遊具、自分の治したい部分と同じ部分を触ると回復するというウワサがある。
「人呼んでリカバリーカバヒコ。カバだけに」がそのうわさ話の決め台詞。

自分の頭が悪いと嘆く男子高校生。
公立中学時代は成績優秀な優等生だったものの、引っ越しを機にエリアが変わり、おそらくレベルの高い高校に入学したのでしょう。初めての中間テストで惨憺たる成績を取ってしまい、すっかり自信喪失してしまっている。

幼稚園児を娘に持つ専業主婦。
ママ友仲間と言葉の行き違いで距離ができてしまい悩む。

3話目はブライダル会社でウェディングプランナーとして働く女性の話。

このカバヒコにあいに来る人たちは、特に具体的な病気とか、怪我をしていたり、というわけではない。

なんか他愛もないばかりであるが、病院に行っても解決しない、病名が付けられない、人からは分かりにくい自分だけのしんどさやつらさを持ち人たちがカバヒコを訪ねる。

自分の本当の気持ちを皆誰にも相談していない。

人に言ってもどうせ分かってもらえないだろうみたいな話をカバヒコという公園の遊具に話すことで救われていく。

そうやってご利益がある存在としてウワサ話は受け継がれて行く。

案外、ご利益があると言われる存在ってそんな風に生まれてきたのかもしれない。



成瀬は天下を取りにいく

この表紙の絵、どこかで見たことがあるな、とずっと思っていてやっと思い出した。

琵琶湖マラソンのポスターに使われている絵じゃないか。

会社の近所にあるスポーツイベントの会社の外窓に他のイベントに並んでずっと貼られていた。

地元開催のマラソンのポスターとは地元愛の強い成瀬にぴったりだ。

主人公の「成瀬あかり」は幼い頃より、勉強は誰よりも出来、運動も誰よりも出来る、
勉学もスポーツも出来る、よく言えば「文武両道」なのだが、はた目から見ればちょっと変人なのだ。

本人は自分に正直に生きているだけで、なんら変わったことをしようというつもりはないのだが、はた目にはあまりにも発想が奇抜だったり、直さがひと目を気にしなさすぎな点でそうしてもそう見られてしまう。

西武大津店が2020年に閉店することに伴い、地元ローカル局では閉店日まで毎日、短い時間だが西武大津店で中継が行われる。
何を思ったか、成瀬はその中継のどこかに西武ライオンズのユニフォームを来て最終営業日まで毎日映り込むことを決める。
ロケのインタビュアーは一切相手にしないが彼女は必ず背景のどこかに移っている。

彼女は西武大津店にひと夏捧げる覚悟なのだ。

そうかと思えば、幼馴染の島崎と一緒にM1に出て天下を取ろう、と言い出し、本当にエントリーしてしまう。
コンビ名も地元の膳所にあやかって「ゼゼカラ」。

そういえば、琵琶湖マラソンのポスターの成瀬のユニフォームにはSEIBUではなくZEZEKARAとあった様な気がする。

どにかく信じた道を突き進む。
そしてくじけない。
他人の目や評価は気にしない。
こんな魅力的な高校生「が「いるだろうか。

彼女の話し方には敬語とかが存在しないのだが、高校での部活でかるた部に入部し、早速その実力の片鱗を見せるが、高校の部活で先輩に敬語無しで貫いたにだろうか。

ちょっとだけ気になった。



ラブカは静かに弓を持つ

なんだろう。最近読みだしたら止まらなくなってしまう本によく出会う。

チェロという楽器、あまり馴染みは無かったが、音色には温かみと豊かさがあり、低音域では力強い響き、中音域では歌うようなメロディーが表現できるのだという。また、人間の声に近い音色とも言われているのだとか。

そんなチェロにまつわる話だ。

全日本音楽著作権連盟とミカサ音楽教室のレッスンにおける楽曲演奏に関する著作権について、著作権連盟はミカサに対して使用料を支払わなければならない、という問題提起にて、訴訟になるかもしれない。
その音楽教室にスパイとして習いに行けと命じられる職員が主人公。

彼は、かつて5歳から12歳までチェロを習っていたので、楽譜さえあれば、初見でもそれなりに弾ける。

平日は著作権の連盟の資料室で勤務し、金曜日の定時後、ミカサ音楽教室に通う生活を送る。そこでクラシックではなく、現代のポピュラーな音楽を習いたいとリクエストする。しかも、そこでやり取りは全て胸ポケットに入れた隠しレコーダーで録音しなかればならない。

そこでチェロに関わるうちにどんどん熱中し、また向上していき、他の生徒仲間達とも一緒に飲みに行くなど仲良くなっていく。
友達のいない彼にとって、その場所は代えがたいものになって行く。

そもそもこういう仕事をやらせるってどうなんだ。

そこで習ったことのある人に証言してもらうだけでも充分じゃないかとも思えるが、
現に今習っている人の生の録音があればさすがに裁判では有利なのだろう。

まさに日本著作権協会とヤマハ音楽教室の訴訟をそのままなぞった形だが、そこでもこんなことが行われていたのだろうか。

人に人を裏切らせる事を仕事として命じるなんて、まぁあり得ないわな。