日付アーカイブ: 2月 18, 2008



運命の息子


過去二度も死産してしまっているのでこれが最期のチャンスと言われる大富豪の夫人の出産。
同じ日に平凡な保険のセールスマンの夫人も同じ病院で出産。こちらは双子を無事に出産する。
出産したその晩に富豪の赤ちゃんは亡くなってしまう。これを見かねた家政婦がその亡がらと双子の赤子の一人と入れ替えてしまう。

こうして双子としてこの世に生を受けながら、各々の道を歩んで行く。
とは言え、運命の息子というタイトルからして、さほど遠くないうちに二人が遭遇するだろう事は大半の読者は想像するだろう。

物語はこの二人を交互に描いて行くのだが、その切り替えがあまりにも急ピッチなのに少しとまどう。

二人は敵になるのか、味方になるのか、凄まじく影響し合うであろう事は予想に難くないが、この長い長い話でなかなか出会ってくれないのだ。

じりじりとしながらもその時を待つ読者。
しらす作家。

「選挙」というキーワードと「裁判」というキーワード。
これらが絡んで来る事は物語を読み進めて行けば大概想像できるのだが・・。
その時はなかなかおとずれない。

この二つのキーワードはどちらもジェフリー・アーチャーには馴染みのあるものなのだろう。
ジェフリー・アーチャーは英国保守党の元国会議員。
偽証罪の罪で裁判で争うという過去を持つ。

この物語、舞台はアメリカだが、アメリカやイギリスでは学校の学級委員や自治会の会長になるために本物の選挙さながらの選挙戦などを行なうものなのだろうか。

運動員がいて、選挙参謀がいて、選挙戦術があって、とまるで本物の選挙さながらである。

日本の学校ではなかなか想像するのも難しい事である。

もし実際に行なわれているのなら、クリントン VS オバマ、そしてその勝者 VS マケインの様なことを学生時代から弁論やはたまたネガティブキャンペーンなども学生時代から体験して来ているという事なのだろうか。

そういう素地の無い日本とはやはり文化が違うのだろうな、などという感想を持ってしまう。

運命の息子達はいずれ出会い、お互いに影響を及ぼす関係となるのだが、ちょっとそこまでの「じらし」は長すぎるのではないだろうか。

ジェフリー アーチャー (著), Jeffrey Archer (原著), 永井 淳 (訳)



乳と卵


難しいもんやなぁ、読み物も。一旦文学ちゅうカテゴリに入れてもうたら、もうわけがわからんわ。
大阪出身者による大阪弁での芥川賞受賞作やっちゅうからムチャクチャ期待してもうたのになぁ。
この本、読み始めて数ページ繰ったところで目ぇが活字を追うてるだけで、なーにも頭の中に入ってけーへん。
そやからまたまた頭から読み直し、それを3回ぐらい繰り返した。
普通やったらそこまで頭に入ってけーへんちゅうことは本との相性が悪いんやろって読むのんをやめてまうところやけど再突入してみてようわかった。
頭に入ってけーへんいくつかの理由が。

まず使われてる大阪弁がめちゃくちゃ中途半端でどうにも頭の中に入ってけーへん。
東京の芸能人が大阪弁を真似する時のイントネーションの違いから来る違和感ともまた違う。
変な大阪弁の使い方。これが一番頭の中を活字が素通りして行く原因やった。
この作品を評して
「大阪弁に支えられて成立する」とか
「大阪弁を交えた口語調の文体が巧みで読む者の中によく響く」とか
選者評では大阪弁が受賞の大きな理由を占めてるみたいやったけどな、残念ながら響けへんねん。
その中途半端な大阪弁があるせいで、全く響かん。
村上龍はこれを「ときおり関西弁が挿入されるが、読者のために『緻密』に翻訳されている」と評してはったわ。
どのへんが「緻密」やねん!とツッコミを入れながらも選者の中で唯一、「翻訳されている」とほんまもんの大阪弁とちゃうことを見破ってはったのはさすがや。
会話は大阪弁。語り部は標準語ならまだメリハリちゅうもんがあるで。
それを語り部の語り口調が首尾一貫してへん。大阪弁使うてみたり標準語を使うてみたり。しかも一文が長すぎて長すぎて、そやからまず読むのに疲れてまう。
なんともしんどい文体や。
なんちゅうんやろな。大阪出身の営業マンが大阪の会社へ営業へ行ってここまでやったら大阪弁でくだけてもかまへんやろか、と躊躇しながら大阪弁を小出しにするようななんかびびりながらの大阪弁ちゅう感じやろか。
・・それが緻密な計算なんかいな。

登場人物は語り部の女性とその姉と姉の娘。
姉は豊胸手術を受けようと大阪から主人公の住む東京へ娘と一緒にやって来る。
姉の娘は親にも主人公にも一言もしゃべれへん。
娘からの会話は筆談や。

筆者は大阪出身。
北新地でも長いこと働いとった、ちゅうから男相手の会話には慣れっこやと思うのに、豊胸手術も娘の初潮も卵子の行く末も男の読み手には全く興味の無い素材を題材に選んではる。
これを読んでなんか響け!共感せぃ!ちゅうたって男の読者には無理な話やで。
共感してる男が居ったら、ちょっと危ないやつとちゃうんかいな。
頭に入ってけーへんかったもう一つの理由はこれなんや。

女性読者には何らかの共感めいたもんがわいて来るかもしらんけど、男性読者を全く対象外において書かれたもんとしか思えんねんな。
この作品は。

元気の無い大阪に活力を!と選者が考えたわけないけど、せっかく大阪弁で賞をとったんやし。
次作には期待してまっせ。
そやけど、大阪人もちゃんと騙して欲しいな。

大阪人にも男性にも馴染む題材でよろしく頼んまっせ!