月別アーカイブ: 9月 2013



カウントダウンメルトダウン


下巻の巻末に取材を行った人が並べられているが、そのおびただしい数にまず驚く。

こういう取材を元に書く本は取材協力者寄りの偏った内容となることは多々あるが、これだけ多くの人に取材しているとどちらかに肩入れしてなどという書き方は出来ないのかもしれない。

福島の事故、あの時、実は日米同盟の最大の危機だった。

アメリカ軍によるトモダチ作戦。2万に及ぶ兵士が投入され、津波で大打撃の東北で真っ先に仙台空港という空路を復旧させたのは、さすが、と思わせられた。

だが、そのトモダチ作成のさなかにあって、日本政府に対しての不審を募らせる声が米国政府内で大きくなる。

アメリカ軍には原子力空母があるので放射能の測定は常に行われる。その原子力空母が異常な数値を検知するのだ。

ルース駐日大使は情報を得ようと時の内閣官房長官にアプローチするが拒否され、頭を抱える始末。

米政府内であがる200キロ圏内退避が実施されてしまえば、日米同盟は消滅していただろう。

アメリカが最も知りたかったのは、この状況をコンロールしているメインのブレーンはいったい誰なのか、ということ。

官邸で行われていることを知ったらたまげて物も言えなくなっただろう。

官邸には原子力安全委員会の斑目委員長が当初、読み違えをしたことで、完全に首相からは信用されない存在となってしまう。
保安院は文系の人間を送って来たからと歯牙にもかけない。

方や東電はというとどこまで情報を開示しているのか、さっぱりわからない。
となれば・・、と官邸自らが乗り出さずには入られなかったのかもしれないが、自分が工大の理工を出ている理系だからと言って、原発の危機にあたっての解決策を持ち合わせるほどに通じているわけでもあるまいに。

この首相、怒鳴りまくって、イライラしっ放しなので、周囲もだんだん腫れものに触るような扱いになっていく。

東電の本店が現場の吉田所長とを説得するのによく登場する言葉が、「官邸がやれってんだから仕方ないだろ」。「官邸が待てってんだから仕方無いだろ」みたいな言葉。

もはや、本来何が最優先されるべきなのかもが命令系統が滅茶苦茶なため、ほとんど忘れられつつある。

唯一現場はそんな本店の意向を無視して、やるべきことをやろうとする。

この本、この手の本にしてはかなり公平な公平な目線で書かれているように思える。

命投げうつ覚悟の吉田所長をたたえつつも、それでも第一原発はメルトダウンを起こしてしまったわけで、それを未然に防いだ第二原発の所長こそが英雄だ、と、吉田氏一辺倒でもないのだ。

麻生幾が「前へ!」という本で取り上げたのは、自衛隊、消防と言った最前線の人達。

その「前へ!」の中で現場の指揮官が恐怖を覚えるのは、この国の中枢の人たちは実は何もわからないままに指示しているのではないのか、という懸念。

そのまさに国の中枢の人たちを徹底的に取材して書かれたのがこの本。

「前へ!」の中で現場の指揮官が恐れていた通りのことが、国の中枢では行われていたのだ。

カウントダウンメルトダウン(上・下)  船橋 洋一 著



GF ガールズファイト


短い小編が5篇ほど。
「キャッチライト」
後述。

「銀盤がとけるほど」
小さい頃からフィギアスケートを習っていた女の子の話。
日本では、競技人口が少ないと言われるペアを選択。
フィギアスケートの経験者の父とペアで練習をするがその父が亡くなり、新たなパートナーとどうもしっくり行かない中、頑張る女子スケート選手の話。

「半地下の少女」
何故かいきなり時代が変わって昭和20年の敗戦直後の満州国大連。
それまで道路の真ん中を歩いていた日本人としてのそれまでの誇りはどこへやら。
道路の片隅でなるべく目立たないように目立たないように暮らす日本人達。
とあるきっかけから、口がきけなくなってしまった少女はひがな地下室に隠れるように住み、昼も夜も一歩も外へ出ることがない。
その少女が外へ・・・。

「ペガサスの翼」
バイク乗りの女の子の話。
同じバイク乗りでも引ったくりの常習犯を捕えようとする。

「足して七年生」。
小学1年生の男子児童に思いを寄せられた小学6年生の女子。

この本の表紙(装丁)やタイトルからは、闘う女子高生みたいなイメージを連想するだろうが、程遠い内容で少々ミスマッチ。唯一「頑張る女性」で集めてみました、みたいな集め方で、それ以外にあまり統一性の無い話が並ぶ。

唯一面白い印象を持つのは
冒頭の「キャッチライト」

元アイドルの話。
とうていガールというにはとうが立ちすぎているが、かつて一世を風靡したアイドルもピークを過ぎれば、現アイドルのカバン持ちみたいなことまでさせられ、なんとかスポットを浴びたい一心でマラソンにチャレンジする。

春や秋の番組改編期に恒例の芸能タレントが会場を埋め尽くした中で行われるクイズ番組。
その中の目玉がマラソン大会。
一位からの順位がクイズとなり、マラソンの最中はトップランナーは、ずっとカメラに映され続ける。
そのトップランナーとなり、必死で笑顔を維持しながら、「仕事を下さい」だの「なんでもします」だのというメッセージを書いたゼッケンを入れ替えて視聴者の目を引こうとする。
この五篇の中でも最も必死さが伝わって、思わずほんの少しだが、感動してしまった。

もちろん、ガールズファイトには程遠いのではあるが・・・。

GF -ガールズファイト- 久保寺 健彦 著



真夏の方程式


海が美しい町、玻璃ヶ浦。
その町に向かう電車の中で、小学五年生の少年、恭平は物理学准教授の湯川学に出会う。
そんな冒頭から始まる今作は、ガリレオシリーズの第6弾、シリーズの劇場版第2弾である。

仕事で瑠璃ヶ浜に来た湯川は恭平の親戚が運営する旅館に泊まるが、同じく旅館に泊まっていた塚原正次が夜中に姿が見えなくなり、翌朝変死体として発見される。

いつもは湯川の大学時代の同期であり、現在刑事をしている草薙俊平が湯川に事件を持ち込み、湯川は警察でなんとかしてくれとわりと淡白(ある意味当然の反応だが)に断る。その後妙なトリックに興味を示した湯川がそのトリックを物理学で解明し、事件の解決に繋げてしまう、というパターンが多い。

しかし今回、湯川は「ある人物の人生が捻じ曲げられる」ことを防ぐ為に事件解決に協力するという。

進んで事件に関わる姿勢、そして苦手としていたはずの少年、恭平とのやりとり。
今作では今までとは少し違う湯川学を見ることができるだろう。

さらについ最近劇場版も見たが、途中湯川と恭平が海を見る為にペットボトルロケットを飛ばすシーン。海の美しさと、夏の暑さも感じるようなあのシーンだけに入場料を払っていいほどのできばえだった。夏も終わりの今だからこそ、より思い入れができたのかもしれない。

原作も劇場版も、東野圭吾作品で特に私が好きな「自身の思惑を一切明かさぬまま、周囲を巻き込み、地位や名誉も全て投げ打って望みを叶える」ような身勝手な人の生き方をみることができた。

やはりそういう身近にいたら迷惑な人の話は、物語の中で読むに限る。