また、同じ夢を見ていた


あなたにとって幸せとはなんですか?

小学校の国語の授業の課題となったこの大命題がこの話の縦の糸。

読み始めた時には、ずいぶんと危なっかしい女の子だなぁ。
見ず知らずの人の家をノックしまくって、たまたま居た人の家に上がり込んだりして。

これまで一度も足を踏み入れたことも無いコンクリートの廃屋へ入って行く時もそうだ。
でもこの少女には嫌な大人、悪い大人の臭いを感じる力がある。
だから何も危なっかしくはなかった。

この奈ノ花という小学生の彼女には「アバズレ」という20代の友達と「おばあちゃん」という友達、「南さん」という女子高校生の友達が居る。

話をする同級生は居ても同級生のことを彼女は友達とは呼ばない。

アバズレさんも出会った時にリストカット中だった南さんにとっても「幸せとは何か」などと考えたことも無かっただろう。

彼女たちにとって幸せとはどういうものなのかを奈ノ花と一緒にいることで思い起こさせる。

それぞれに個性的だが、アバズレさんのキャラが最も光ってるかな。

小学生を「ガキ」と呼びつつも会話だけはキチンと成り立っている南さんもなかなかだ。

高校生からガキ呼ばわれしようが、とっと帰れと言われようが、全部好意的に受け止めてしまう、この奈ノ花という小学生はかなりすごいヤツだ。

人生とは~が口癖で、結構思いつきで放たれるその比喩の箇所だけはとても小学生とは思えない。

この話、ネタをばらしてしまうと、パラレルワールドでもあり、時を超えた出会いでもあり、夢オチでもある。
彼女がその時、未来の自分に出会わって忠告を聞いて無ければ、彼女はリストカットの南さんにもなり、季節を売るアバズレさんにもなっていた。

この本を読んだ読者は少なくとも一度は、自分にとっての幸せとはなんだろう、と思いめぐらすだろう。

夢オチなんて掟破りだろう、と普通なら思ってしまうが、この話だけは絶対にOKだろう。
タイトルからして「また、同じ夢を見ていた」なんだから。

夢の話に決まっている。

また、同じ夢を見ていた   住野 よる著