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ふがいない僕は空を見た


なんだこの出だしは!エロ小説なのか?

「女による女のためのR-18文学賞」という賞の大賞受賞作だという。

この本は、年上のコスプレ好きの主婦のところへ通って、教えられたセリフ通りに話すことを条件にその主婦との情事を行う話が序章の「ミクマリ」。

次がそのコスプレ好きの主婦が何故その様な行動を取るようになったのか、その主婦の視点から描かれる「世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸」。

そう、主人公というか語り部が章毎に変わって行くパターン。

そしてその男子校高校生が好きでたまらない女子高校生の視点からの「2035年のオーガズム」。

その男子校高校生の友人の立場からの「セイタカアワダチソウの空」。

この本を通して見ると「ミクマリ」の部分は、後の構成には無くてはならない入り口で、次の「世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸」では、マザコンでストーカー体質の男、子離れ出来ない母親。
ちょっとどん臭くて高校時代からイジメに合っていた女性の成長してからの姿。
卵管の狭い女性と精子の少ない男性。
不妊治療と人工授精に体外受精。
家の中に監視カメラをしかけて妻を監視する夫。

まぁこれだけでも充分に豊富な題材ながら、それだけでは留まらない。

次の章では、幼少の頃から秀才ぶりを発揮し、T大理三へ現役で合格するお兄ちゃんと可愛いだけでいいと親から言われる妹。
カルトっぽい宗教団体や2035年というはるか先の終末論。
川の氾濫、家への浸水。

次の章では幼い頃に首をつった父と出て行ってしまった母。
朝は新聞配達、夜はコンビニのバイト、そして認知症の祖母との二人暮らしの高校生の苦難。
万引き少年の多い団地の子供たち。
変態扱いを受けた元エリート塾講師。

今の時代の話題性のある題材が山ほど並べられて展開して行くのだが、それらはやはり脇を飾る役割のものでしかない。
冒頭の男子校高校生が出会う苦難が悲惨そのもの。

そして、助産婦という仕事をするその高校生の母親の仕事柄がきれいに物語を結んで行く。
新たに生まれ行く命、これが全てを結んでいる。

それにしても章が移る毎にだんだんと話の展開が面白くなって行く小説なのに、大賞を受賞したのはその序章の「ミクマリ」なのだと言う。
「ふがいない僕は空を見た」通しで成り立っている本なのではないのか?
その賞っていったいどんな賞なんだ。
その部分だけで本当に大賞なのか?
それだけじゃ、ほとんどエロティックな本、という表現で片づけられてしまいそうな気もするが、この出版不況のご時世だ。いろんなジャンルに賞を与えて出版という文化を幅広く残して行こうという出版社の意図でもあったのか、それがまず第一感のイメージだった。

なんだか納得が行かない気がして、再度、序章だとばかり思っていた「ミクマリ」だけを再読してみてわかったような気がする。

そうなのだった。実はその一編だけでも、生まれ行く命というテーマでちゃんと締めくくられていたのである。

ふがいない僕は空を見た 窪 美澄 (著) 「女による女のためのR-18文学賞」大賞受賞作



ツール・ド・ランス


タイトルは「ツール・ド・フランス」では無く、「ツール・ド・ランス」。
ランス・アームストロングという自転車のプロロードレーサーの果敢な挑戦を密着取材したドキュメンタリーである。

ランス・アームストロングという選手、1999年から7年連続でツール・ド・フランスを制した自転車ロードレーサーのスーパースター中のスーパースター。
2005年の優勝の後、一旦、現役を退いた彼が、約3年のブランクを得て現役復帰をするという。

自らもアマチュアのロードレーサーでロードレーサーの熱烈なファンである筆者は、彼の現役復帰を素直に喜べない。

ランスは勝って当たり前の選手。その勝つ姿以外のランスを見たくない、という気持ちがもう一度ランスの走りを見たいという気持ちより優先してしまうのだ。

ツール・ド・フランスとは自転車のロードレーサー競技の中の最高峰のレースで、3週間、3300kmとフランス・イタリア・スイス・・など国を跨いで行われる。
3300kmという距離、日本列島の北端から沖縄の南端までの距離よりも更にまだ長い。
それも山岳越えを何度も何度もという相当に過酷な競技である。

地元ではW杯サッカー、五輪に次ぐ大イベントなのだそうだ。

日本では自転車のロードレースという競技、あまりメジャーではないが、筆者が言うにはアメリカでも週に2回ほどの頻度で自転車を走らせるアマチュアの自転車人口は800万人も居るのだとか。
大阪もオバちゃんの自転車人口が多いがこれとは意味が違うんだろうなぁ。

自転車のロードレース競技というのは表彰台に上るのはチームではなく、個人なので、一見個人競技のように思えるが実は個人競技では無い。

チームにエースは一人。
他の選手はエースをひたすらアシストする。

一度、引退したエースが復帰する、ということは現在のエースとの確執が生まれるのは必至である。

その所属チームであるアスタナには次のエースであるコンタドールという選手がその位置を占めている。

そんな中へ復帰したランスがツール・ド・フランスに挑む。

このドキュメンタリーでは過去のレースなどの話を交えながら、2009年のツール・ド・フランスの全コースを走り終えるまでを一冊の本にまとめている。

走っているランスの写真が何枚か載っているのだが、実年齢よりも老けて見えてしまう。
そんなランスに自転車のレース界ではおなじみのドーピング疑惑がかかったり、年よりの冷や水的な批難の声が上がったりする。
それに対してランスが「Twitter」を駆使して応戦するあたりは、やっぱり今時なんだよなぁ。

それでもレースも中盤から終盤にさし掛かる頃には、ランスへの視線はどんどん暖かくなって行く。
ギャラリーの声援はもちろんのことだが。それだけではなく、スタッフやコンタドールを除く他の選手たちまでも。

それにしても、一生働かなくてもゆとりのある生活を送れるだけの賞金は稼いだはずのランスが何故また苦しい戦いに復帰する決断をしたのか・・。

レースを終えてしばらくした後のランスと筆者との会話の中にその答えは有った。


ツール・ド・ランス  ビル・ストリックランド 著  安達眞弓 (翻訳)



リストラなう!


この本、ブログがそのまま本になっている。
「リストラが始まりました」というタイトルではじまるブログとそのブログに対するコメント、どうやらそのまま本にしてしまったらしい。

最初の「リストラが始まりました」では、「頑張って!」とか「私もリストラ組です」、「応援しています!」みたいなコメントがついているのが、だんだんと回を重ねる毎に厳しいコメントが付くようになる。

で、このブログ主が実は結構高級取りだとわかってくるとかなり手厳しくなり、とうとうこのブログ主が年収を発表してしまう。そうなるとほとんどその高額年収に対する集中砲火で、もう同情の声はほとんど無くなる。

それにしてもこのブログ主さん、どれだけ叩かれようと、毎度毎度「心が折れました」などと書いてはいるものの、叩かれた内容について反論も激怒もせず、ひたすら「その通りですよね」と続けて行くところが好感度を持たれるのだろうか。

ブログ主はやがてはコメントに対して反省の弁を書く世界から脱して行き、もうこうなったら好き勝手書いてやるとばかりに突っ走り、方やコメントの方もかなり手厳しいコメントは続きながらも手厳しいとはいえ、真剣であまりに真っ当な意見が多いのに驚かされる。

本ではブログ主の書いたブログ本体とそれに対する、コメント、コメントに対するコメントなど、ブログ本体とコメントの割り合いはだいたい半々ぐらいだろうか。

そのコメントを含めてそのまま本になるほどに、コメントの質が高いのだ。

話題は電子書籍になったかと思えば、出版社、取次店、著者、書店の各々の力関係だの、利益配分だの、返本制度の問題点、本来はこう有るべきの類の意見があったり、出版という業界のいい勉強になる。

同じ出版関係の人のコメントもあれば、書店の店員さん、そして著者の立場からの意見などもある。

それぞれのコメントがかなりの真剣なもので、長文なものが多い。

出版業界はどうあるべきかという業界話題から、仕事たるものどうあるべきかという広い話題に至るまで、コメント欄は達者な方でいっぱいだ。

まぁしばらくたってしまえば、筆者(ブログ主)の周辺では知れ渡ってしまったらしいから、そういう身近な人達の書き込みもあったのだろうか。

それにしてもこのブログ、初っ端の投稿があってからもうその翌日にはかなりのコメントが寄せられている。

いくらブログタイトルが人の関心を惹くものであったとしたって、ブログを初めて直ぐにそんなに読者が現れるものだろうか。

この筆者(ブログ主)はもっとかなり以前からブログを維持し、ブログ読者を持っていたのではないだろうか。でなければなかなか説明がつかない。

冒頭にては電子書籍の登場にて、出版社もとうとうリストラか、と言うような流れだったと思うが、そうだったとしたら、電子化でリストラされて書いたものが電子媒体から紙媒体に移って売れてしまう、というのはなんという皮肉なんだろう、と思ってしまうところだが、ブログが進展して行くにつれ、リストラに至る要因が電子書籍でもなんでもなく、もっともっと根の深いところにあることがブログ主とコメントから書き間見えて来る。

いずれにしてもブログとそのコメントとで出来あがるというスタイルとしては新しい姿の出版物が世に出たわけだが、それも筆者(ブログ主)のいかなるコメントも受け入れるという懐深さ無しでは成り立たなかったのではないだろうか。

リストラなう! 綿貫 智人 著