読み物あれこれ(読み物エッセイです) ブログ



デモナータ2幕 悪魔の盗人


読み始めてみて、なんだ1幕と主人公が変わっているではないか。
という不満が湧いたが、そんなものはすぐにふっとんだ。
デモナータを渡り歩く冒険談は1幕をはるかにしのいでいる。

そしてまたもやダレン・シャン氏にやられたーとつぶやきたくなるどんでん返し。
悪魔の盗人の意味するものはそういう事だったのか。

主人公の少年は変わり者扱いをされていて友達もいない。
いつも一人っきりでさびしいという事を冒頭でしつこいぐらいに繰り返していた。
あるタイミングから幼い弟をかわいがる兄になっていて、さびしいと言う表現が無くなっているのだが、なーんだ弟がいたのか、とすんなりと受け入れてしまう。
両親が引越しを言い出す時の態度や、数日間行方不明になって帰って来た時の反応も全て納得が行く。

新刊だけにあんまり書くとネタバレになってしまう可能性があるのでやめておこう。
印象に残ったシーンを書くのは容易いが、発刊して間もないこういう場合はどこまで書いていいのか判断に迷ってしまう。

一作毎に全く異なる登場人物を配して、オムニバス形式でデモナータそのものを主人公にするつもりなのかと思いきや、1幕で登場したダービッシュが出て来るでは無いか。
しかも一作目よりも若い。

ダレン・シャン氏は「デモナータシリーズでは語り手となる主人公が3人いる」と言ったそうだ。(2幕あとがきより)
第1幕のあとがき時点で6巻まで書き終え、全部で8~9巻のシリーズにすると言っていたそうだ。
時間は行きつ戻りつしながらも1幕目の主人公も2幕目の主人公もまた次の主人公も全部繋がって行くのだろう。

この第2幕は、冒険談とどんでん返し以外にもう一つの投げかけを読者にしている。
何年間も行方知れずとなり、もう死んでしまったものと思って新たな生活を始めた夫婦にとって、行きなり帰って来た息子とはどういう存在になるのか。しかも年齢は死んだと思っていた年齢のままで。
このあたりは前作のダレンシャンと共通する。

いや、こんなあたりもまだ書くには時期尚早と言われるかもしれないのでこのあたりでやめておこう。

デモナータⅡ 悪魔の盗人 (デモナータ 2幕) ダレン・シャン (著), 橋本 恵 (翻訳)



デモナータ1幕  ロード・ロス


ダレン・シャン氏の2作目である。
1作目のダレン シャン はシルクドフリークというきっかいなサーカス有り。バンパイヤマウンテンでの攻防有りで楽しませてくれた。
ただ、タイニーとか言う神の様な存在を作って時空を自由に操れるなんてところは、ストーリーテラーとしてはいただけない。
結局なんでも有りになってしまってせっかく長い長い物語として積み上げたものを崩壊させかねない。

デモナータは待望の2幕「悪魔の盗人」が刊行されたので、1幕の紹介を早めにしてしまわないと時期を逸してしまうので大急ぎでUPしてもらう事にした。
「1幕 ロード・ロス」の魅力はなんと言っても、悪魔であるロード・ロスそのものの個性であろうか。
「ロード・ロスは人間の悲しみをむさぼる。人間の痛み苦しみを食べる。ロード・ロスにとって葬式はコース料理。自殺を考えている孤独な人間はおいしいおやつ。ロード・ロスは、人間の不幸な心が好きでたまらない」という人の苦しみ、災難、不幸を何よりも至福とする悪魔のロードロスが事もあろうにチェスが何よりも大好きでチェスの勝負の為ならフルコース料理並みの不幸も取引材料にしてしまうなどという一面。そして卑怯な事はせずに勝負は勝負らしく悪魔らしからず存外にいさぎが良い。
蜘蛛の様な手を自在に操り、一回の対戦で五つのチェス盤で同時に戦う、などと言う場面も面白い。
また主人公のグラブスの家系の持つ特異性も徐々にあらわになって行き、引き込まれるものがある。
人狼病が出て来た時、前作がバンパイヤで今度は狼男か?などと思ってしまったが、人狼病はストーリーの中ではほんの脇役の役割りでほっとした。
前作もこの作品も普通に暮らしていた男の子がある日を境にとんでもない世界へ踏み出して行くのだが、デモナータ(異次元の悪魔の世界)本体の姿はこの中には出てこない。
2幕を待つしかなさそうだ。(実はもう読んでしまったのだが)
しかし、家族が惨殺されるシーンにしてもどうしてまたこんな残虐なシーンのある読み物が人気を得てしまうのだろう。
本当に子供達が読んでいるのだろうか。
冒頭での姉に対するいたずらにしても、シャワー上がりのタオルにネズミのはらわたを仕込んで、血まみれにしてしまうなど、ちょっと常軌を逸したいたずらに思えてしまうが・・・・、案外そんなところに人気の秘密があったりして・・・・。

デモナータ 1 ロード・ロス デモナータ1幕 ダレン・シャン (著), 田口 智子 (イラスト), 橋本 恵 (翻訳)



半島を出よ


村上龍さんと言えば「愛と幻想のファシズム」が以前、このコーナーにて取り上げられているが、そこからいきなり「半島を出よ」までとんでしまうのは惜しい気がする。
あの名作「五分後の世界」までも飛ばしてしまうなんて。だが、同じ感想を書くにしても新しいものから書くのが新鮮というものだろう。
とは言え、「愛と幻想のファシズム」に関しても何らまともな感想が述べられている訳では無い。手っ取り早く言えば、「読めばわかる」という事をたらたらと述べているにすぎない。

「半島を出よ」は近未来小説である。
近未来も近未来、ほんの5~6年後の世界なのだ。しかもかなりリアルなシロモノだ。

本編の描く未来は2011年。しかもわずか10日間あまりの出来事である。
北朝鮮の反乱軍と日本政府、マスコミ、そして社会からドロップアウトした若者達が話の主役なのではあるが、そこまでに至る経緯、時代背景の描き方、その演出には恐れ入る。

冒頭に出て来る、リョッコウと呼ばれる元公園のホームレス居住区の風景描写なぞはその典型。
「東大・京大・一橋大卒業証明書有りで三万円」と書かれた精子バンクのパンフレット。
穴を掘ってダンボールで囲っただけの便所。ダンボールの下から女の尻が見えていても誰も気にもとめない。
ヤクザがNPOとなってホームレスエリアの利権を漁る。

日本や各国の動きについても見逃せない。
2006年には団塊の世代の公務員退職金未払がはじまり、地方債と財投債が暴落。
金利が暴騰し、インフレと不況が日本を襲い、2007年にATMストップ。
政府は財政破綻し、預金封鎖に踏みったのだ。
消費税は上がり続け17.5%に。
日本はアメリカからもヨーロッパ、ロシア、中国、韓国からも孤立し、日米安保も解消寸前に。失業者の増加。増え続けるホームレス。
国民は導入された住基ネットの住民票コードで管理され、個人情報の全てはこの住民票コードにぶら下がっている。
アメリカも世界の警察である事を止め、イスラエルはパレスチナの独立を認め・・・。

近未来でありながら、直近の歴史を読んでいるかの如くである。

北朝鮮のこの作戦のヒントは、第二次世界大戦時のヒットラーの作戦だった。
亡命ユダヤ人に紛れた特殊戦部隊の一個中隊が客船でニューヨークに上陸し、マンハッタンを占拠する。
その部隊は、ナチスから逃れて来た反乱軍だと主張し、ヒットラーもそれを認める。
その反乱軍と名乗る一隊に市民は人質に取られ、アメリカはパニックに・・。

まさか、なのである。

そのまさかを北朝鮮が福岡を舞台として繰り広げる。
北朝鮮は日本にたった9人の北朝鮮のコマンドを乗り込ませ、福岡ドームを乗っ取る。
政府が全く無策のまま、後続部隊が到着し、たった500人の北朝鮮部隊は、無抵抗の国に乗り込み全く無傷のままで人口100万都市を手に入れ統治する。
駐留部隊は北朝鮮の反乱軍と名乗っているので、北朝鮮による侵攻とはならず、アメリカ、中国、韓国、国連は静観。
500人のみならず、後続の12万人の反乱軍が北朝鮮を出航しようとしている中、日本政府のやった事と言えば、九州の封鎖と北朝鮮への非難。

ほんの5~6年後の日本を描き、金日成、金正日、北朝鮮・・と実名をあげて書いている。
内容が内容である。しかもそのリアルさとあまりの生々しさ故に、私は村上龍さんの身辺に何か起こりはしないか、と読みながら心配をしてしまった。
だが、もう出版されて広く読まれているのである。毎日出版文化賞も受賞した。
寧ろ書き上げている時の方が遥かに恐ろしい。よほどの緊張感の中で書き上げたのでは無いだろうか。

下巻の巻末に参考文献が記されているが、その膨大な量も去ることながらその分野のなんと幅広い事か。
北朝鮮関連が最も多い。北鮮関連では、脱北者の関連文献から金正日回顧録の類、北朝鮮の童話本に至るまで、北朝鮮と名の付く本は全て漁ったのではないかと思えるほどだ。
他には、国際法関連、安保関連、特殊部隊、兵器、武器、火薬、爆薬関連、住基ネット関連、預金封鎖の関連、エシュロン関連、建築設備関連、虫、爬虫類関連、医学関連書籍・・・そして膨大な映像資料。

村上龍さんの書いている事で一貫しているのは、二者択一しか選択肢が無いのにそれを曖昧なものにしてしまう者達への批判、非難、軽蔑である。
それが、プライドという四文字に表現される事もあれば、裏返しに自信喪失という形でも表現される。
政府しかりマスコミしかり、何より日本人そのものしかりなのである。

そしてその曖昧模糊に対峙するのは、以前は若い女性が主役だった様に思う。
応えの出せない男共に対して、失うものの無い若い女性の方が考え方がシンプルで、迷い無く応えを出して行く。

社会からドロップアウトした少年達がその役割を果たし始めるのは、「希望の国のエクソダス」の前後からだろうか。
この本の中のもう一つの主役達である少年達も「共生虫」あたりから登場し始める、世の中、社会、大人・・というものに溶け込めない少年達に類似したものを感じる。
未読の方の為にも、最後は書かないが、この本の中では社会から、大人から不要とされた少年達が活躍する。

この本に書かれている事は荒唐無稽と読む人も入れば、近未来小説というカテゴリの一つに納めてしまう向きもあろう。
確かに近未来の架空の話ではあるが、ここに登場する人々が陥った様な「これまでに実感の無い現実」を目の前にした時の日本政府、マスコミ、日本人の姿は現実そのものなのである。

半島を出よ 村上龍 著