読み物あれこれ(読み物エッセイです) ブログ



カエルの楽園


なんともわかりやすい本だ。

天敵のダルマガエルの攻撃で、毎日毎日ダルマガエルに食われて命を落として行くアマガエルの一族。

長老は時が過ぎるのを待つ。今は耐えるしかない。
を繰り返すが、若い主人公その名もソクラテスは、座して仲間が食われて行く状況を待つことに納得がいかない。

60匹ばかりの同志と共に安住の地を求め、生まれ故郷を旅立つこととする。
だが、外の世界に安全な場所などなく、カラスに狙われ、マムシに狙われ、水の中ではイワナだって天敵だ。
仲間はどんどん減って行き、最後はとうとうソクラテスともう一匹の二匹だけとなってしまった。
その最後に辿り着いたのが、ツチガエルたちが住むナパージュというとても平和な国。

天敵が襲ってこないのだ。
天敵が襲って来る心配をしなくてもいい場所、というのは二匹にとっては、おそらく初めての体験。

何故、天敵が来ないのか。

この国には三戒を守っているからだ、とツチガエルたちは口ぐちに言う。
三戒とは
「カエルを信じろ」
「カエルと争うな」
「争うための力を持つな」

もう、皆まで読まんでも早くもこのあたりでなんとなく察しはついた。
が、読み進めて行くと、ツチガエルたちは謝りソングという唄を歌い、自分たちの国が過去に起こした残虐な行為を謝りつづける。

そしてその三戒を守り、謝りソングを唄うだけで、本当に平和で安全な国になるのか、この国についてもっと調べることにする。

そして新たにわかったのが、実態はスチームボートという名のタカの存在。
彼が崖の下から上がってくるウシガエルににらみを効かせていた。

三戒を守れば平和は来るのだ、と演説するのはこの国で一番物知りと言われるデイブレイクというツチガエル。そして皆が拍手を送る。

やがて、南の崖からウシガエルが一匹、そして二匹・・・と表れてくる。

いやぁ、そこまでそのまんまにしなくてもいいだろう、というぐらいに念入りだ。

言わずもがな「三戒」とは憲法九条で、ツチガエルたちが住むナパージュという国はもちろん日本。
スチームボートという名のタカはアメリカで、デイブレイクと言う名の物知りは朝日新聞。
南の崖から現れるウシガエルが中国。

その他、現在の南シナ海の現状とおぼしき内容を訴えるカエル。

安保の集団的自衛権についてとおぼしきやり取り。デモとおぼしき行為をする学生団体シールズと思われる若いカエル達。
三戒さえ守っていれば安全が保たれる、というが相手が三戒を守ってくれるわけじゃにだろう、云々の議論の応酬。

集団的自衛が出て来ているので、最近の話題だし、やはり今でもこういう議論はさんざんされてはいるが、ちょっと出がらしっぽい。

30年も前、いやもっと前なんだろうか。九条があるから日本は安全という神話がまかり通っていた時代にこの本が出たなら、まだ少しはインパクトがあっただろうに。

「永遠の0」「海賊とよばれた男」以来の名著だと言われてもなぁ。

百田さんの言いたいことはわかりますよ。

でもこの二冊と一緒にして欲しくないなぁ。

あれらは書くに至るまでにどれだけの歳月をかけて取材したのだろう、と思わせられる本だったし、実際に名著だと思う」。

でもこの本なら百田さん、一晩でテレビ見ながらでも書けちゃうんじゃないの?

カエルの楽園 百田 尚樹著



怒り


房総半島の猟師町、魚市場に勤める父には20歳をとうに過ぎた娘が居るのだが、ちょっと飛んでる娘で、父は娘にまともな幸せなど訪れないんではないか、と諦め気味。

そこへふらっと現れた身元のわからない男。彼をアルバイトとして雇うのだが、娘はその男と徐々に親しくなり、とうとう一緒に暮らそう、という運びとなる。

方や、沖縄の波留間島という離島へ引っ越した母と高校生の娘。
その娘が友人とボートで行った無人島で一人のバックパッカーと出会う。
彼は自分を見た事を誰にも言わないで欲しいと娘に頼み、彼女は忠実に約束を守る。

はたまた、東京の大手通信会社に勤める男。
彼はゲイだ。
ゲイたちが利用することが多いサウナで出会った一人の青年。
彼が行くところが無い様子なので、自宅へ招き、同棲の様な生活を始める。

全く無関係な三組の登場人物たちが交互に登場する。
こういう時ってどっかで交わって行くんだよな。
大抵、交わってからの方が話が面白くなって行く。

だがこの話、三組の登場人物たちは最後まで交わらない。

三組に共通するのは、いずれも過去の素性が知れない男が表れ、それぞれの登場人物たちとだんだん親しくなって行くところ。

一年前に東京八王子で夫婦惨殺事件が起きて、容疑者はすぐに特定されるが、行方は杳として掴めず、捜査は難航していた。

警察はテレビを使い、容疑者の情報を集めようとする。

房総のアルバイト男、ゲイの同棲男、沖縄の離島のバックパッカー男。
それぞれ、過去の経歴も何も一切わからない男たち。

それぞれの周辺が、テレビの報道などを見て、ひょっとしてあの人が?

と疑心暗鬼になって行く展開なのだが、少々長すぎやしないか。

確かに3つの物語を同時並行しているようなものなので、少々長くはなるだろうが、
上下巻で引っ張らなくても良かったんじゃないの?

これが映画化されたと聞いた時は少し驚いた。
映画にするにはちょっと地味な話じゃないか、と思ったのだが、かなり評判良かったらしい。
邦画って地味な方がいい作品になるのかもね。

怒り 吉田修一著



億男


この本には、古代ソクラテスから現代に至るまでの著名人によるお金にまつわる名言が山ほど出てくる。

あのトランプ大統領のまだ大統領候補にもなる前の不動産王としての言葉も出てくる。

その名言だけピックアップして読むのも面白いかもしれない。

3億円、かつての3億円事件の頃なら相当にインパクトのある金額なんだろう。
今や、聞いたこともない野球選手だってほんの2~3年で稼いでそうだ。
とはいえ、やっぱり3億円は大きいよなぁ。

この話、弟の借金を肩代わりし、数千万の借金を抱え、昼は図書館の司書、晩はパン工場で働き、妻子にも出て行かれている男が福引で宝くじを当て、なんとその宝くじが見事に当選。またたく間に3億の金を手にしてしまう。

ところがいきなりの大金を手にすると身を滅ぼすのでは、とネットで宝くじに当選した人を検索してみると、案の定、身を滅ぼした人の話ばかりが出て来る。

不安で不安でどうしようもない。

こういう話を読むと思いだすのが、かつて某食品メーカーの社長が、一介のサラリーマンに、明日から出社しなくいていいから、とにかく好きなだけ金を使って来い、という指示を出す話。もちろん資産を購入するのはご法度だが、どんな贅沢をして散財してもいい。期間は一年だったか。最後に何か商品開発のアイデアを一つ出せばいい。
そんな作業指示にサラリーマン氏はびびってしまってほとんどお金を使えない。
で、とうとう、普通に出社できないなら皆より早く会社へ出て、廊下とかトイレとかの掃除をしていたのだとか。

それに比べれば、この主人公は別に使い切らなくてもいいわけだし、そんなに不安に思うこともなかろうに、15年間も会っていなかった大学時代の親友に相談する。
その親友はなんと3億どころか100億を超える資産家になっていた。

その大金持ちであるはずの友人があろうことかその3億円を持って消えてしまうところから物語はスタートする。

その親友の居場所の手ががりを求めて彼が事業をやっていた時の3人の創業時メンバのところを巡る。

一人は公営住宅のようなところに住む女性で夫と共に質素な生活をおくりつつも、夫のルスに押し入れの奥底に12億円を並べてこっそり眺めているという人。

一人は競馬でも儲けて儲けて仕方がないという男。
そも男の言うままに主人公氏も馬券を買い、一瞬にして1億を手に入れ、一瞬にしてその1億を失う。

一人はいかがわしい金儲け教の宗教みたいなものを立ち上げて、その教祖として崇められ、しろうとから金を巻き上げている男。

三人の元を訪ねながら、本来は親友の居場所を探す手がかりを求めていたはずが、いつの間にか目的が「お金と幸せの答え」を探す事に変わっていく。

さて、彼は無事にお金を取り戻し、「お金と幸せの答え」を見つけることが出来たのでしょうか?

あーぁ、それにしても遠い話だ。
3億じゃなくてもいいから、100万円でもいいから、一度当たってみたいものだ。
じゃぁ、真面目に働いて稼げよっ!ってお叱りを受けそうだ。

億男 川村 元気 著