読み物あれこれ(読み物エッセイです) ブログ



チャイナズ・スーパーバンク 中国を動かす謎の巨大銀行


かつて、といってもほんの10数年前までは農村地帯でしかなかったようなところに、日本の地方の政令指定都市をはるかに上回る人口規模の都市がどんどん出来あがる。
海外の人間はもちろん名前を聞いたこともない。中国の国内ですら、ほとんど名前を知られていないような100万人都市が雨後のタケノコのように乱立して来た。

かつて農村だった時には、さほどお金が手に入らなくても、自給自足でメシは食えたので、貧しい貧しい、と言いながらもなんとか生活はしていけた。
その農村を安い土地代で半強制的に立ち退かされ、都会生活者となったとたん、生活レベルがこれまでの10倍、100倍となる。
それだけ稼がなきゃ逆に食っていけない。
それが(生活レベルが10倍100倍だから)それまでの暮しより10倍、100倍豊かになったと言い立てるが果たしてそう言い切れるだろうか。

そういうシステムを作り上げたのが、ほとんど世に知られていない中国開銀なのだという。
地方政府は安い価格で土地を手に入れ、その土地を担保に中国開銀は大量の資金を地方政府に貸し付け、地方政府はインフラ、高層ビル、使う人がいようがいまいが巨大なスタジアムを建設する。スタジアムがあれば、その周囲の土地の値段が跳ね上がるからだそうだ。そうやってバンバン大枚をはたく。
その結果出来たのが、100万人都市の雨後のタケノコ。

同じことを開銀はエチオピア、ガーナをはじめとするアフリカ諸国、ベネズエラ、エクアドルをはじめとする南米諸国に対して展開している。
日本でも紐付きODAなどが問題となったことがあるが、この開銀の場合は紐付きとどころじゃない。
契約書にどうどうと謳われているのだ。
で、相手国政府が中国企業に発注するのではなく、中国開銀からの融資額の一部が直接中国企業に支払われる。絶対に取っぱぐれしない、ということだ。

国内の総都市化の後にアフリカ、中南米のインフラにも触手をのばし、そして国内企業=国有企業の海外展開への育成というよりシェアの独占化に力を貸す。

次世代エネルギー、通信、陸運・・・・・各種のインフラ関連企業の国際競争のにおいて、購入側の資金調達をスムーズにしてやることが出来れば、話は早い。
中国開銀ならそれが出来るのだ。
低金利でしかも支払い猶予にかなりの余裕を持たせる。もちろん、中国国営企業への受注手助けだ。開銀の有利な融資の後押しをバックにつけた中国企業たちは軒並み世界のTOPシェアにどんど食いこんで行く。

これぞまさに共産党が、国家そのものが行う資本主義。
国家資本主義とでもいうのだろうか。

各国のそれぞれの独立民間企業など太刀打ちが出来るわけがない。

アメリカの通信事業の受注を中国の通信企業が行って国家機密が保てるのか、の議論がアメリカであったのは記憶に新しい。

この本の日本での邦訳出版は2014年4月3日。それからまるまる一年。

総貸出残高108兆円(2012時点)で世界一の貸出規模を誇る銀行でありながら、その実体がほとんど知られていない、というこのアンバランスさ。

この一年の間にどういう動きがあったのはは定かではないが、ここに来て急ピッチで中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)の発足に向けた動きが活発化して来た。
日本アメリカは不参加だが、アジア各国のみならず、ヨーロッパ各国も加盟の方向だ。

日米除きの各国を巻き込んでのチャイナズ・スーパーバンクがまさに生まれようとしている。

チャイナズ・スーパーバンク 中国を動かす謎の巨大銀行 ヘンリー サンダースン・マイケル フォーサイス 著



海に沈んだ町


三崎さんて、廃墟の作品が多い気がするなぁ。
この本、短編ばかりを集めた一冊。
その短編のいくつかには廃墟がからんでいる。

その廃墟になりゆくものの最たるものが、日本の高度成長期の人気の的だったニュータウン。
一旦「ニュータウン」と名前がついてしまうと、もはや時代に取り残されていようがいまいがいつまででも「ニュータウン」なのだ。
そのニュータウンを政府の保護政策の名のもとに動物を放し飼いにしたサファリーランドのようにして、そこに住む人たちを珍しい生態系かの如くに見物させる話。

これは廃墟ではないが、廃墟よりももっと気持ち悪い。

中に住む人にはその生態系が変わらない様に全盛期の時代のままを維持させねばならず、外の情報は一切入れず、テレビがあったとしてもそのニュータウンの全盛時代の再放送を繰り変えすだけ。
どこぞの一党独裁国家よりも恐ろしいなぁ。

決して朝を迎えることのない町を訪問する「四時八分」。
これはなかなか印象深い。

いくつかある短編の中で最もアイロニーにとんでいるのが、「橋」という話。

市役所の人間が訪れ、家の前の橋が規定の通行量を満たしていないので、もっと幅の狭い橋に作り変えるから賛同してほしい、と言う。

通行量を多くなったから大きなものに、なら賛成反対の前に言わんとすることの意は理解できる。でも、少なくなったからお粗末なものに作り変えるたって金がかかる。
それなのに素直に「うん」と言わない方がおかしい、と思わせるほどにその市役所職員の受け答えは理路整然としている。
なんだろう。このお役所説明の頑なさは。
なんなんだろうこの変な感じは。

またまた不思議な三崎ワールド。短編でも大いに発揮でした。

海に沈んだ町 三崎亜記 著



三匹のおっさんふたたび


これって何かに連載でもしてたのかなぁ?
書きおろしとは思えない連載物感があるなぁ。

一作目がなかなか痛快で期待を超えるものだっただけにその続編となれば、最低一作目は超えてもらわないと・・・。

チビのノリさんあたりのどんな頭脳プレイが発揮されるんだろう、とかなり期待わくわくだったのに・・。

事件と言えば、駐車場のゴミ捨てだったり、深夜の中学生のたむろだったり。
しょぼい。

三匹のおっさん達よりも寧ろその息子の世代にスポットが当たっている。
作者もあとがきでそう書いている。

ならば「三匹のおっさんふたたび」じゃなく、「三匹のおっさんの息子達」とでもしてくれりゃぁそのつもりで読んだだろうに。

とはいえ、終盤で偽三匹のおっさん達が登場するあたりは少し笑える。

剣道師範おっさんの嫁さんの若かりし頃は結構モテモテだったんだ。

てなことで、三匹のおっさんふたたびでした。

三匹のおっさんふたたび 有川浩著