読み物あれこれ(読み物エッセイです) ブログ



愛妻納税墓参り


最近の新入社員はそろって空気が読める人間ばかりだと誰かが嘆いていた。

KYという言葉が一時流行ったっけ。

空気が読めないやつは嫌われるんじゃなかったのか?

怪訝な思いで聞いていると、廻りの空気ばかりを気にして自分の考えを持っていないんじゃないか。本音は何を考えているのか、さっぱりわからない、というのがその嘆きの主旨だった。

何を考えているのかわからないなら新人ばかりじゃあるまいに。

年配の連中だって本音のわかるやつなんて、そうそういないんじゃないのか。
まわりの空気ばかりを気にし過ぎて、上役のご機嫌伺いばかりしているやつなんで山ほどいるだろう。

三宅久之さんは周囲の意見に流されることなく、本当にぶれない人だった。

周囲全員が消費税増税反対!と言う中で、一人、老いも若きも金を使った連中から税を調達する、一番公平じゃないか!
年寄りだけがもらうばっかりじゃ、若い連中に不公平だ、と自論を曲げなかった。
三宅さんが一言発すると、廻りの反対連中もしーんとなる。

三宅さんは頑固一徹の空気が読めない人なんかではなく、空気さえも作ってしまう人だった。

「愛妻納税墓参り」この言葉、三宅さんの口から発せられるのを何度も聞いた覚えがある。

戦前、戦中、戦後の話などは生き字引のように語られる、三宅さんの言葉にはいつも説得力があった。

その三宅久之さんの回想録を三男の三宅眞さんがまとめているのがこの本だ。

一昨年の春ごろだったか、テレビ出演やら講演会やらの政治評論家活動の引退を宣言される。
それでも人生の幕を下ろす前にこれだけは、と思われたことが「安倍晋三をもう一度日本の総理大臣にすること」だった。
まだ本人すらその時期では無い、と思っていた時に本人を説得し、周囲にその空気を作り上げて行く。
三宅久之さん無くして今日の安倍内閣は誕生していない。

かーっと怒ったじかと思うと、次の瞬間にはもう愛くるしい(などと言えばおこがましいが)笑顔でニコニコしていらっしゃるあの笑顔。

回想シーン以外であの笑顔を拝むことはもう無くなった。

残念でならない。



ミッション建国


日本の少子化問題、将来世代へ先送りの社会保障、東京一極集中による地方・東京の格差。
これらの諸問題をなんとかしようと立ち上がったのが若手の国会議員達。

誰がどう見ても小泉進次郎だろうと思われる主人公が誰がどう見ても中曽根康弘だろうと思われる人物に教えを乞うたりする。

案として出て来るのが、老朽化して過疎化して来たかつての子育てのメッカである公営団地や東京オリンピックが終わった後の選手村を若い世代に新たな住まいとして提供し、その中で教育も充実させ・・・云々。
また、早めにの結婚・出産を促進し子育てを終えた女性に再教育の後、第二新卒として社会で活躍してもらうなどなど。

現実界では、まさに第2次安倍内閣が発足し、女性の社会進出。地方の活性化を政策の目玉に引っさげた。

東京の一極集中を回避する特効薬ならこちらにもアイデアはある。

まさにこれからやろうとする法人税減税がそれだろう。

ただし、これを東京だけは減税じゃなく50%まで増税とし、東京以外の首都圏は現状維持。
その他の地方に関しては半分以下の大幅な減税。

かつては各地に本社があったはずが、どんどん本社機能を東京へ集中させているのが、現状。

それを元に戻すにはこれっきゃないじゃないのだろうか。

ものすごい名案だと思うんだけどなぁ。

維新の橋下さんあたり、言い出さないかなぁ。

とまぁ、この本、ミッション建国の内容からは大幅にはずれてしまったが、小泉進次郎が都知事にでもなったらますます東京に集中してしまいそうなので、敢えて話題をそらせてみました。



女のいない男たち


彼女を作らない草食系男子を描いた本ではない。

「ドライブ・マイ・カー」「イエスタデイ」「独立器官」「シェエラザード」「木野」「女のいない男たち」
の短編が集まった本。

ドライブ・マイ・カー
妻に先立たれた俳優が、生前の妻の不義を女性運転手に吐露する。
この女性の規則正しい運転が小気味いい。

イエスタデイ
関西弁を話すことをやめた芦屋生まれ芦屋育ちの大学生が主人公。
逆にバリバリの大阪弁を話す田園調布生まれ田園調布出身の友人。
彼が歌う大阪弁の変な歌詞をつけたビートルズのイエスタディ。

独立器官
父親の跡を継いだ美容整形外科の渡会医師。
生まれた時から恵まれた環境で育った彼は、生涯、結婚をしたいとは思わない。
だから、付き合う相手も既婚者か特定の付き合っている人がいる相手、つまり結婚を迫られる心配の無い相手とだけ付き合っているのだ。
適度な期間付き合ってはスマートに別れる。
そんな独身生活を謳歌していた彼がある時、本気で女性に恋をしてしまう。
その後の変わりようがなんとも痛ましい。

シェエラザード
浅田次郎に同名の大作が思い浮かぶが、それとは関係は無い。

何か施設のようなところに閉じこもった生活をしている男のところへ、週に何度か、冷蔵庫の中身をチェックしながら、買い物をして届けてくれる女性が派遣される。

まるで決まり事のように彼女と男は肌を重ね、その後に彼女の語りが始まる。

この短編の中で一番印象に残っているシーンは彼女が前世はヤツメウナギだったいうあたりか。

ヤツメウナギになりきって水底でゆらゆらとしながら、水面を見上げ、獲物を待つ。

そんな生き物に詳しいだけでもかなり珍しい人だが、その生き物になり切れる。

なんて想像豊かな女性なんだろう。

このいくつかの短編のなかで印象深かったのは、渡海医師の話か。

いや、やっぱり、ヤツメウナギだろうな。