読み物あれこれ(読み物エッセイです) ブログ



ロスト・トレイン


ちょっと大人の青春小説、みたいな宣伝文句で思わず手にしてしまったが、青春小説とはいかがなものなのだろう。
新潮社にしてはちょっと過大な宣伝文句じゃないだろうか。

一言で表すなら「鉄道マニアが喜ぶ架空廃線ファンタジー」といったところだろうか。

なんといっても鉄道マニアにはたまらない一冊だろう。

主人公はさほどの鉄道マニアではなく、どちらかと言えば廃線歩きマニアというような立ち位置だが、他の登場人物はなかなかに熱烈な鉄道マニアばかり。

「日本のどこかに、まぼろしの廃線があり、その始発駅から終着駅までを辿れば奇跡が起きる」
そんな話をキーワードに物語は進んで行く。

主人公氏は鉄道マニアの老人と知り合いになり、行きつけの店で酒を酌み交わす仲になるが、ある時、その老人はまぼろしの廃線を見つけたかのような言葉を残して失踪してしまう。
その老人を同じ鉄道マニアの女性と一緒に探しに行く話。

今ではすっかり見かけなくなった駅の伝言板。
その伝言板に二人だけがわかる符牒でやり取りし、飲みに行く時の合図に使う。
これは鉄道に関係無くても携帯電話や携帯メールのやり取りよりも押し付けがましくなくて、何やら情緒を感じる。

戦前の鉄道の話やら、ゲージのサイズについてのくだりやらは鉄道ファンなら大喜びしような話ではあるが、何と言っても鉄道マニアのお得意は「乗りかえ上手」なのではないだろうか。

鉄道乗りかえの妙技は松本清張の推理ものを連想ししまうが、考えてみると時刻表片手に鉄道を乗っていた時代には、この時刻の電車に乗って、ここで下車すればこの電車に乗車でき、ここへはこんな時間へ到着出来る、みたいな事は鉄道マニアでなくても一般的な大人なら普通に行っていたことだろう。

インターネットの路線検索では絶対に出てこないような上手な乗りかえ方を時刻表片手の時代には容易に出来ていたわけだ。

そういう意味では鉄道マニアという存在、ある時代のある文化を残すという意味でなかなかに貴重な存在なのかもしれない。

ロスト・トレイン  中村 弦 著



11/22/1963


今年の11月に駐日大使として赴任したキャロライン・ケネディ。
その就任の時に馬車で皇居へ向かう彼女を見た人々の歓声たるや、熱狂的なものであった。

ジョン・F・ケネディの娘というだけで、(もちろんそれだけが理由ではないだろう。彼女が親日家で美人だということも理由のひとつだろうが)それだけの人々を熱狂させるほどに父のケネディ元大統領は日本でも人気があったし、アメリカでも人気があった。

その人気が今でも続いている最も大きな理由はやはりあの暗殺事件にあるのではないだろうか。
若干43歳で大統領就任。
四年の任期を終えて二期目をむかえる頃になると、かなりボロが出て来て、就任当初の人気とは程遠くなるものなのだろうが、ケネディはまだ人気絶頂期のまま、他界してしまったのだ。

この物語は過去へと旅立つ物語。

主人公は30代の高校教師。
なじみのハンバーガー屋のオヤジから過去へ行く道を教えられる。
そのオヤジ、何度も何度も店の裏にある抜け穴を通って過去へと行き来し、あろうことか50年前の貨幣価値を利用して肉を仕入れていたのだ。
なんとちっぽけな!せっかくの過去への旅をそんなことに使っていた。

必ず、行った先は1958年の同じ日の同じ場所。
二回目に行けば一度目の訪問はリセットされ、前回会った人とは向こうは初対面。同じように話しかければ、全く同じ会話のやり取りが繰り返される。
そのあたりが「バック トゥ ザ・フューチャー」とは異なるところ。

オヤジ、せっかく過去へ来れているという重要性に気が付いたのか、1958年からあと5年を過去で辛抱して、ケネディ大統領を助けようと思い立つ。

ベトナムへの介入に否定的だったケネディの死後、大統領になった副大統領のジョンソンはベトナムへの北爆を開始する。だからケネディの暗殺を阻止すればベトナム戦争で亡くなった何百万というベトナム人やアメリカ兵の死者を助けることが出来るはず、というのがその考え。

過去へ行くことが毎回リセットと言ってもそれはあくまでも過去だけでそこで過ごした年月分だけ自分自身は年老いて行く。
歳を取り過ぎてタイムリミットとなったオヤジは主人公氏に過去へ行って、オズワルドの暗殺の阻止を主人公氏に委ねるのだ。

果たしてオズワルドさえ殺してしまえばケネディは救われるのか?

ケネディの暗殺には、現代でも全く解明されないままの謎や陰謀説が山のようにある。
マフィア犯人説、KGBによりものから、CIAの犯行説、兵器産業陰謀説・・・。
オズワルドは実行犯だけをやらされた使いっ走りだったのか、そもそも撃ったのが本当にオズワルドだったのか、さえ確かとは言えない。

そこで、オズワルドが単独で行ったものという確証を得てからオズワルドを阻止するという難しい選択肢を主人公氏は選ぶわけだが、過去は変えられることに対してとことん抵抗してくる。

この本を書くにあたっての過去への調査は並大抵のものじゃない。

なんせ見て来たかの如く事件前のオズワルド周辺が描かれている。

今では歴史の小さな一コマに過ぎないキューバ危機の時の多くのアメリカ人の心境がどんなものだったのか。まるで全土が9.11直後のような大騒ぎの状況をリアルに描いている。

はてさて、オズワルドを阻止してケネディが生き永らえたとしてどんな未来(現在)が現出するのだろうか。

なんとも壮大な物語なのだ。

11/22/63(上・下)  スティーヴン・キング著 白石 朗訳



珈琲店タレーランの事件簿


珈琲好きにはたまらない一冊だろう。

珈琲に関するうんちくがたんまりと盛り込まれている。

この本も京都の本屋大賞にあたる京都本大賞のBEST3の一冊。

珈琲店は御池通の京都市役所の辺り 富小路の角を北上。

主人公の行動範囲の中心は北白川やら出町柳あたりか。

いかにも京都の大学で学生時代を過ごした人らしい行動半径だ。

この本、『このミステリーがすごい! 』大賞を逃した作品なのだそうだ。

そりゃ、どう考えたって、いわゆる「ミステリ」とはちょっとジャンルが違うだろう。

珈琲店タレーランの女性バリスタは、謎解きが得意なのだが、その謎ったって、謎というほどのものでは決してない。

ご愛嬌なんだろうと思っていた。

主人公の傘が間違われた。さて、何故だ?ってミステリとは言わないだろう。

何故『このミステリーがすごい! 』大賞の候補にあがったのかの方がはるかに謎だ。

ミステリはジャンル違いかもしれないが、ちょっと美人のバリスタがハンドミルで珈琲豆をコリコリコリと挽いているのを何度も読まされてしまうと、久しぶりにハンドミルでちゃんと挽いた珈琲を飲みたくなってしまった。

珈琲店タレーランの事件簿  また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を 岡崎 琢磨 著