読み物あれこれ(読み物エッセイです) ブログ



まほろ駅前番外地

まほろ駅前多田便利軒の続編。
まほろ駅前多田便利軒について、簡単にふれておくと、
多田というクソ真面目な男が経営する便利屋。
そこに転がり込んで来た高校時代の同級生の行天。
普段は何もせず、多田一人に働かせて居候を決め込んでいるような格好の行天。
何もしていないようで、いきなり突飛で、意表をついたような行動を取ったかと思うとそれが功を奏して問題が解決する。
概ねそんなかたちの問題解決ストーリーが展開される、

今回の番外地は多田も行天もどちらかというと脇役。
前作で脇役だった人たちが今度は主人公と言ったところか。

星良一の優雅な日常はなかなかに興味深い。
覚醒剤を密売する不良高校生を徹底的に痛めつけるかと思えば自分のマンションに転がり込んで来た女子高生に対する純な愛情はもはや高校生未満なのだ。
このギャップなんともいい
この章では、ほとんど多田も行天も登場しない。

思い出の銀幕は曽根田のばあちゃんの昔の恋愛物語。
行天をかつての恋人役にして語られる戦後のドタバタ時代のばあちゃんの恋愛話。
なんともほろ苦いは、ばあちゃんの名言がたくさんでて来る。

この本、既に映像化までされているのであまり深く記すこともないが、まほろ駅前多田便利軒を既読の方にはなかなか楽しめる番外編だろう。

まほろ駅前番外地 三浦 しをん著



一応の推定


「自殺そのものを直接かつ完全に立証することが困難な場合、典型的な自殺の状況が立証されればそれで足りる」
「その証明が『 一応確からしい』という程度のものでは足りないが、自殺でないとする すべての疑いを排除するものである必要はなく、明白で納得の得られる ものであればそれで足りる」
それがタイトルでもある「一応の推定」の定義だそうだ。

ひとりの男が電車にはねられ、死亡する。
損害保険会社の依頼で事件の調査に当たるのは定年退職目前のベテラン保険調査員。
自殺であれば損害保険会社は遺族へ保険金の支払い義務は無い。
調査員の仕事とは、その死亡が自殺によるものなのか、事故によるものなのかを調べることになる。
会社としては当然ながら自殺であることを証明しようとする。
遺族は、事故だというに決っている。

調査を進めるに連れ、自殺であってもおかしくないようなことがいくつも判明してくる。
・死亡した男性には、渡米して臓器移植の手術を受けなければ、余命いくばくもない孫がいて、その渡米のためには多額のお金が必要だった。
・保険に入ってから間が無い。
・死亡した男性の会社は実は倒産していた。

次から次へと出て来る材料は、男が自殺したのでは?と思わせることばかり。
「一応の推定」の成立として報告書を仕上げてしまうことも出来るのだろうが、それでもこの調査員はまだまだ調査を続行していく。

老調査員は死亡事故のあったJR膳所駅まで行き、死者の最後の直前の場面を自ら再現してみたり、階段からの歩数を図り。列車のスピードを調査し・・・。目撃者がいる可能性があれば、今度はその男を追いかける。追いかけた先の京都に既に住んでいないなら、その別れた奥さんを追いかけて鳥取まで出張する。

保険の調査員は刑事ではないので、捜査権などはもちろん無い。
あくまでも人の善意に訴えて、証言を引き出していく。
そこはベテランならではと言ったところか。
作者自身保険の調査員だったというから、ご自身での体験が大いに著されているのだろう。
なかなかに読み応えのある一冊だった。

次作の「回廊の陰翳」が京都の本屋大賞BEST3。

この本がデビュー作にして松本清張賞を受賞。

こちらは京都よりも寧ろ大阪。新世界界隈もあれば、淀屋橋から北浜の界隈やら、日常に歩いている場所が頻繁に登場するので、親近感は満載である。

一応の推定  広川 純 著 松本清張賞



時のみぞ知る


イギリスの港町のごくごく貧しい家庭で育ったハリーという少年。
港町をほっつき歩くことが好きでなかなか学校へと足が向かなかったハリーだが、 オールド・ジャック・ターという謎の老人に出会ってから、彼の元で好奇心を旺盛に勉強することとなる。
勉強も聖歌隊での歌も高く評価され、お金持ちの子弟しか入れないような学校へと進学し、寄宿をする。

ハリーの進学の陰には母親の涙ぐましいほどの努力があったわけだが、彼女は努力だけの人では無かった。実に才能豊かな女性だったのだ。

戦争で亡くなったと聞かされていた父親についての真実が、だんだんと明らかになって行く。

富裕層の息子達からいじめや嫌がらせを受ける中、同じ大富豪の御曹司ながら彼をかばってくれ、家にまで招待してくれる友人。
その友人の家族の中でも何故かその父親だけがハリーに冷たい。

そんなことの理由もやがて明らかになっていく。

ジェフェリー・アーチャーが書いた「全英1位ベストセラー」と聞いて、久々にジェフェリー・アーチャーの長編を味わおうと思ったが、なんと上・下巻を読み終えてもまだまだ物語は序の口といったところ。

クリフトン年代記 第一部 とあるので、続きものであることは覚悟していたが、それでも上巻・下巻とたっぷり枚数を使っているんだから、それなりに「時のみぞ知る」で完結はして欲しかった。

クリフトン年代記 はさらに別のタイトルで続いて行く。

時のみぞ知る(上): クリフトン年代記 第1部 ジェフリー アーチャー (著)  Jeffrey Archer (原著)  戸田 裕之 (翻訳)