対岸の彼女 


第132回直木三十五賞受賞作

働く女性と子育てをする女性を対岸の存在として表現していることに、なんとなく抵抗を感じながら手にした一冊。
最近よく取り上げられるこのテーマに、他と同じような展開を想像してしまいましたが、角田さんの視点はすこし新しく感じられました。

ざっとあらすじ。
主人公はちいさな子供のいる専業主婦の小夜子。
独身時代はばりばり働いていたけれど人間関係に疲れて結婚と同時に退職。
再び世間とのつながりを求めて働き始めることを決意します。

そこで出会ったのが独身女社長の葵。
意気投合しますが山あり谷ありで決別。

間には学生時代の葵のエピソードがあったりします。

いろいろなエピソードから、小夜子と葵がまったく違う人生の経験を通して、まったく違う人間になったのではなくて、
意外と同じ感性や感覚を育てていったことが伝わってきます。

高校時代、いろんなことを言わなくても伝わるくらい近くに感じられたた友人と、卒業後、進路を別にして徐々に距離が離れていった経験があります。
壁を作っていたのは何だったのか、わかるようではっきりわかりません。
でも、きっと自分の中の勝手な決め付けが彼女を遠ざけてしまったのだと思います。
この本を読んでいると(もしかしたらこれは女子独特のものかもしれませんが)、誰にでもある苦い思い出がよみがえってくるような気がします。
そして、そのことを悔やむだけではなくて、またもう一度小さなきっかけを自分が作ることで、対岸の彼女をこちら岸に、もしくは自分をあちら岸に連れて行けるかもしれないと思わせてくれます。

すぐ近くに感じた人でも何かのきっかけで対岸の存在になりえること、
対岸の存在だと思い込んでいる人が、実は寄り添える存在であったこと、
もしかしたら対岸と感じさせているのは自分の人生を肯定したいという弱い思い込みだったりすること。
そんなことを考えさせられる一冊です。

対岸の彼女 角田光代著 第132回直木三十五賞受賞作