月別アーカイブ: 11月 2014



快晴フライング


とある中学の水泳部の廃部をかけた話。

地域の公立中学の中で一校だけプールの無い学校。
本題に入る前に、
同じ学区内にしてはずいぶん不公平な話だなぁと思いつつも、よくよく思い出してみると、自分の小学時代にも同じ市内の別の小学校のプールを全学年借りに行っていたのを思い出した。
相手の小学校の校舎の窓から、ヤジのような馬鹿にした声を浴びたが、不思議と屈辱的でもなんでもなかった覚えがある。
級友達と一緒だったからだけではないだろう。別にお前らがプールを作ったわけでもなければ前らの親が作ったわけでもないだろうに。と、妙に覚めた大人のような気持ちだった覚えがある。
わき道にそれたが、そんな授業で使うプールとクラブ活動で使うプールとは少々重みが違うかもしれない。
なんといっても借りている相手は対戦相手であり、これからうち負かさなければならないライバルの本拠地だ。
戦う前からアウェイか。
この話、もちろんそんな話ではない。

自分の戦跡やタイムにしか興味の無かった少年が、主将が交通事故で亡くなってしまったためにたいして、主将代行の立場となる。
主将だった少年は、幼馴染みで面倒見の良かった同級生で多くの後輩から慕われていて、それまで同好会的なサークル活動だった水泳活動を学校から部として認めさせるまでにした。
その跡を継いだわけだが、自分の個人成績にしか興味の無かった男に後輩たちは付いて来ず、退部者が相次ぎ、はなからやる気の無い顧問の教師からは廃部を宣言されるが、大会のリレーでの優勝を宣言してしまう。
優勝できなければ廃部。
池井戸潤の「ルーズヴェルトゲーム」を思い出すような話の流れ。
ただ、こちらの水泳部の残留者は飛び込めない息継ぎできないやつ、泳げないやつ、と、到底戦える布陣では無い。
そんな時、練習場の市民プールで見かけた飛び魚のような泳者。
性同一症候群の同級生の少女の話などを含めて、そこまでの展開にしてしまえば結論丸見えじゃない、と思いつつもその存在感はストーリーの盛り上げには大いに有効だ。

それよりも存在感が大いにあったのがオカマのママさん。
教師よりもはるかに教師らしい言葉、信頼感。説得力。
自分に正直に生きている人ならではの説得力。

なぜだろう。体型はまるで違うはずなのにその存在感がマツコデラックスと被ってしまった。

快晴フライング 古内一絵著



イラストレイテッド・ブルース


一巨大企業が世界を支配する世界。

地球の大半がそのコングロマリットの私有地。

自由自治区として残った数少ない都市、ニューヨークでその巨大企業に刃向かうテロが起きる。

その巨大企業の頂点に立つ会長はもはや人間の域を超えた神のような存在。

それに立ち向かうブルースという名の一人の男。
実際には彼は立ち向かったわけでもなければ、テロを起こしたわけでもない。単に放浪していただけなのだが、テロリストなどには到底及ばない力を持っている。
こちらも神のような存在なのだ。

もはや漫画・劇画の世界を無理やり小説にしてしまったような本だ。

この巨大企業の会長とブルースという男が相対する場面がちょっと面白い。

このブルースの一族は古代エジプト、古代アッシリアの時代から世を騒がせていたというのだとか。
第二次大戦時の連合軍のドレスデンへの無差別攻撃は彼の父を葬るだめだった、とか。
ナチのユダヤ人狩りはブルースの一族を探すためだった、とか。
ナポレオンの敗北にもどうやら関与していたらしい。

壮大なスケールという謳い文句。
確かに地球の支配はおろか宇宙の支配に乗り出そうというコングロマリットは壮大という言葉に近いかもしれないが、その登場人物の持つ力は人間はおろか魔法使いなどもはるかに超えて、もはやなんじゃそりゃ、「何でもありかい!」の世界。

ちょっと活字の世界では難しそうな作品でした。



バージェス家の出来事


アメリカのメイン州で育った兄妹3人。

長男がメイン州を出て、次男のボブもメイン州を出てニューヨーク暮らし。
妹のスーザンだけは息子と共にメイン州にとどまっている。

長男のジムは有名な事件の無罪を勝ち取りアメリカ全土で有名になったようなエリート弁護士。
やり手ではないが、気の優しいボブ。

そんな二人の元に事件の連絡が入る。

スーザンの息子のザックがソマリ人の集まるラマダンの晩のモスクにあろうことか、血の付いた豚の頭を投げ込んだのだ。
中に居た人々の恐怖は相当なものだ。
小さい子供はトラウマになるかもしれない。

その事件をきっかけに二人の兄弟はメイン州に帰る。

メイン州というのは、若者は大学進学とともに地元を出て行き、そのまま帰って来ない。なんだか日本のあちらこちらの地方を思い起こさせる。

そこへ、ソマリアから大量に移民が入って来て、町の雰囲気は彼らが過ごした子供の頃とは一変している。

実際にはソマリアと言っても比較的治安のいいソマリランド、海賊国家ブントランド、治安の悪い南部ソマリアなどいろいろあるのだが、アメリカ人にとってソマリアなんて聞いたことのある人は稀だろう。
せいぜいソマリア=海賊と紐付くぐらいか。

移民が大量に来たってそんな程度の認識。

アメリカはもとより移民国家だ。
それでも住民が減少傾向にある地域で、大量に来た人々が、英語も話せず、女性はブルカを被って表情も見えない。
そんあ異教徒集団が集まって来てしまう、というのは気持ちのいいことでは無いだろう。
だからと言って、彼らにとって最も苦手な豚のしかも頭とは。

最も、この事件で一番傷ついたのは事件を起こした当の本人のザックだったのだ。

事件後もゆうゆうとしていた長男のジムだったが、ザックが行方不明になったことをきっかけに壊れ始める。

もうそれぞれ50歳を超える年になった兄妹なのだが、人生年をとっても何がきっかけで何が起こるかわからない。

そんなことを考えさせられる本だった。

バージェス家の出来事 エリザベス ストラウト 著  Elizabeth Strout著 小川 高義 (翻訳)