読み物あれこれ(読み物エッセイです) ブログ



獺祭


南国の小さな藩が舞台。

いわゆる剣豪小説という範疇の読み物だ。

道場主の主人公の目標は戦わずして勝つ。
いわゆる究極の強さを目指す。
あまりにも強いと評判になると、向って来ないだろう、というもので、さしずめ現代で言うところのナントカの抑止力を目指しているようにも思える。

と、言いながらも自ら編み出した秘剣というやつを使って一撃のもと、刺客を殺してしまう。
しかも二回も。
なんじゃそりゃ。

物語は四篇から成り、弟子の家庭での問題やらをその面倒見の良さで解決して行く話の運びが中心だが、剣についての描写よりも寧ろ軍鶏(しゃも)についての詳細な描写が印象に残る。

かわうそが捕まえた魚を岸の石の上などに並べるさまを獺祭(だっさい)というのだそうだ。
彼の正岡子規が名乗った号はいくつもあるが、その中に確か獺祭書屋主人という号もあったかと思う。

獺祭という響き、やけに文学的な匂いがするのだ。
この本、軍鶏好きの道場主の語。

主人公が獺祭の場面に出会う以外、獺祭とは無縁である。
何故そのような文学的響きのタイトルを付けたのだろうか。

この作品の前に「軍鶏侍」という一冊があったようだ。
ならばサブタイトルにある様に単純に「軍鶏侍(二)」のタイトルで良かったろうに。

へたに「獺祭」などという深みのありそうなタイトルをつけるものだから、読者は途中まで平坦に来ても、いやいや、これから深みが出て来るんじゃないか・・・。
と返って期待されて少々損をしている気がする。

タイトル負け、と言っては作者に失礼だろうか?

獺祭 軍鶏侍 野口卓著



ビヨンド・エジソン


12人の博士が見つめる未来

取り立てて有名な人が出て来るわけではない。

それでもその道ではおそらく知らない人はいないほどに道を極めた人達。

アフリカの睡眠病という奇病に挑み続ける博士。

若い頃から恐竜好きで恐竜の学問が出来るなら海外だろうがどこへだろうが、飛んで行くような女性恐竜博士。

乾燥地で植物生産の向上を目指す農業気象学者。

言葉の不思議を探究する音声工学者。

・・・と12人のまだまだこれから活躍するであろう年代の博士が登場する。

第一章の寄生虫学者は幼い頃、シュバイツアーの伝記を読んでシュバイツアーに憧れたという。

この本は全てドキュメンタリーであるが、ある一面12人の短い伝記と言ってもいいだろう。
彼らに共通するのは、国境や言語の違いなど全く厭わない、そんなことはまさに小さな問題だとばかりに世界の各地へ飛び立って行くフットワークの軽さ。
国境や言語の壁などよりもはるかに探究心が勝っている。

ビヨンド・エジソン。確かにその世界ではエジソン超えている。

皆、若い頃に良き師と呼べる人に巡り合い、そこでは満足出来ずに自身の研究を続け、師を超える、もしくは師とは少し違う方向において師と並び立つ存在になっている。
ここに出て来る人達を知っているか、と聞かれたら100人中99人は知らないかもしれない。
それでも彼らの研究は地球に爪痕を残すに十二分のものだろう。

こび本の出版にあたっては、筆者から取材を受けたことであろう。
その取材の結果が、このような本となり、自身で読んでみた感想はいかがなものなのだろう。
くすぐったく思った人もいるかもしれない。
それでもこうして本になってささやかながらも若者に夢を与える側に立ったのだ。

この本の出版がこの先生方のさらなる励みに繋がって行けば、喜ばしいことである。

ビヨンド・エジソン 12人の博士が見つめる未来 最相葉月著



恋物語


あの傾物語でとことんカブいてしまってからの後も、作者のお約束通りに3月、6月、9月、12月とそれぞれ花物語、囮物語、鬼物語、で最後に恋物語と出版された。

それぞれのキャラクターが怪異から完全開放されて化物語が終焉して行くものだとばかり思っていた。

花物語では神原駿河のするがモンキーが終止符。
囮物語では千石撫子が終止符・・と。
鬼物語は忍の終止符で花物語で戦場ケ原に終止符がうたれるんだろう、と思っていたが、違った。

花物語では阿良々木君の卒業後が舞台でいきなり飛躍してしまって、傾物語の後にしては、少々肩すかしを喰らったような気分だったが、それなりに終止符。

囮物語では千石撫子が終止符のはずがこのキャラクターに最後の最後まで引っ張られた。

鬼物語は、第忍話 しのぶタイムなどとあるので、忍の終止符かと思いきや、これも違った。あにはからんや八九寺真宵の終止符だった。

少女不十分なんていう10周年記念なんかも間に入ってようやくこの花物語なのだが、なんでここに来て・・・。貝木泥舟が語り部だと。

終わる気ないだろ。

囮物語でメドウサならぬ怪異になったまま引っ張られていた千石撫子がここでようやく終止符なのだが、案の定、巻末にファイナルシーズンの予告の広告が・・。

どのあたりで、完結させるのを諦めたのだろう。
もともとそのつもりだったのか、

やっぱり期間区切ってなんてキツいノルマを自分に課しちゃうから・・。
いつの間にかこのシリーズ、セミファイナルって呼ばれてるし。

まぁ、作者も「100パーセント趣味で書かれた小説です。」って書いているし、読む方も楽しみが先延ばしになった、ということで構わないんですけどね。

冒頭の貝木泥舟の語り。
本に書いてある文章なんてすべてがペテン。
ノンフィクションと帯で謳っていようと、ドキュメントだのルポだのと銘打っていようと全てが嘘だ。

というくだり、なんとなく「少女不十分」にひっかけているような気がしなくもなかった。

わりと人物像が見えにくかった貝木泥舟の新たな一面を見せてくれた、という新鮮味はあるものの、どう考えたってこれでは終われないわなぁ。

やっぱり、ファイナルシーズンとやらもお付き合いするんだろうな。

恋物語 (講談社BOX) 西尾維新 著, VOFAN (イラスト)