読み物あれこれ(読み物エッセイです) ブログ



レジェンド


自由の国アメリカの近未来がまるで中国のような情報統制独裁国家に!

全ての子供達は10才になると「審査」と呼ばれる試験を受けなければならない。
1500点満点のその審査で、1400点以上の高得点を取れば高級官僚でへの道が約束される。
合格ライン1000点を取らなければ、強制収容所送りになり、1000点から少し上だったとしても、それはかろうじて収容所送りにならなかっただけで世の下層階級で生き続けなければならない。

そんな試験で史上初の1500満点中1500点を獲ったのがジェーンという女の子。
飛び級で15才にして最高学府の勉学も終えてしまっている。

方や、その「審査」で落第した後、親からも死んだと思われるデイという少年。

賞金付きの指名手配中でありながら、軍事施設への攻撃やらの政府機関に対する強盗や襲撃を繰り返す。
行動は過激だが、決して死者は出さない。
計算されつくしている。あまりに華麗にやり遂げるため、逮捕は無理だろうと思われている。
エリート中のエリートのジェーンが、反乱分子のディを追う立場となって・・・。

「政府は国民の味方だ」と信じて来たエリートにとって、政府が群衆を取り囲んで銃撃する光景はどのように映ったことだろう。

作者のマリー・ルーは、天安門事件の時にはまだ若干5歳であったが、目の前で繰り広げられる惨劇ははっきりと目に焼き付いていると語っている。

民衆に銃を向ける国家とそれと闘う若者。

ありふれた設定かもしれないが、天安門事件を見て来た人が書いていると思うとそれなりの感慨がある。
ジューンとデイが交互に語り部となってテンポの良いこの本、なかなかに面白く一気に読みおおせること必至である。

レジェンド マリー・ルー著 三辺律子訳



日御子


志賀島で漢委奴国王(かんのわのなのこくおう)と刻まれた金印が発見されたことは小中学校の教科書にも載っているぐらいなので、誰しも習ったことぐらいはある。

この物語、まさにその漢委奴國王の金印の話から始まり、その金印を授かるように努めた使譯(しえき)の一族の物語なのである。

倭の国各国には使譯(しえき)という職業の人が居て、皆、名字はアズミなのだという。アズミは安住であったり安曇であったり安潜であったり・・・いくつものアズミ家が存在するが、元は一つだったのではないか、と言われている。

使譯という職業、「通訳」のような存在なのだが、「通訳」としてしまうとあまりにも軽い。
倭の国においては漢の言葉を使えるのが彼らだけだ、というだけではなく、文字を知り、文章を表すことが出来るのも彼らの一族のみなのだ。
従って、国書や親書を認めるのも彼ら一族の仕事で、その出来次第で外交関係を築けるかどうか、の国運を背負う。
使節団が派遣される時の移動中は通訳兼添乗員のような存在であったりもするが、正使や副使よりも立場は低いとはいえ、交渉の実態においては全権大使のようなもの。

そんな重責を代々担い、日本国内にいくつもの国がある時代にあって、そのどの国でもその使譯という役割を担ったという一族はその当時のこの国のエリートの中のエリート一族と言えるかもしれない。
もちろん、そんな一族のが居たという史実はないのでフィクションなのだろうが。
唯一フィクションでないのが、「漢委奴国王」という金印の存在だ。

灰という名の有能な使譯が、那国王からの依頼で、漢の国王へ上奏しに行った時のことを孫に話して聞かせる。

旅先では驚くことばかりであったが、最後に賜った金印に刻印された文字が「漢委那国王」ではなく「漢委奴国王」になってしまっていることに後で気づき、自らの失態とばかりに嘆くが、文字が読めない国王に失望を与えては、と敢えて国王にも告げずに孫にのみ伝え、一生を終える。

その孫が伊都国という国の使譯として、5隻の船の使節団を率いて、壱岐国、対海国を経て韓の国に入り、楽浪郡を経て漢の都へと半年をかけた道のりが描かれる。

物語はそのひ孫の代・・と続いてはいくのだが、この旅のくだりにかなりの枚数を割いている。筆者はまるで自分で見て来たが如くに綴って行く。

祖父が驚いたのと同様に最も驚くのは、馬車という乗り物と「紙」。

紙を発明したのは、後漢時代の蔡倫という人だと、宮城谷氏の本にあった。
祖父が出会った国王は後漢を興した光武帝。
と、考えると、祖父の時代に紙があったかどうかはかなり微妙だ。

祖父はその馬車や紙を見て、百年後の倭国でもそんなものは出来ないだろうと感想を抱くが、その感想通り百年後でも出来ていない。

この時代とて、争い事や戦は数多あっただろう。
漢の国においての腐敗政治はこの後のこと。本格的な戦の時代の三国時代はこの後であるし、前漢以前のにも春秋時代という各国が戦争ばかりしていた時代はあった。
倭の国においてもこの物語にも描かれる通りに戦の時代へと突入する。

はるか後に人類は産業革命を経、またそのはるか後に情報革命を経るわけだげ、その後の現代とこの時代の人々と果たしてどちらが豊かだったのだろう。
各国各地域にはそれぞれの伝統の大元があり、守られ、自然の恵みも豊かである。
それより何より百年や二百年では揺らがない精神性を保い続けていることが何より現代より優れていると思えてならない。

日御子(ひみこ) 帚木蓬生(ははきぎほうせい) 著



震える牛


捜査本部が置かれるような重要犯罪、それが一ヶ月もたって、状況が進展しないと、本部は縮小され、その後お蔵入りになって行く。
そんなお蔵入りの事件を任される、窓際のための部署が捜査一課継続捜査班。
その継続捜査班という本来、陽の当らない部署にあって、これまでお蔵入りして来た事件を解決に導いた老刑事が主役である。

この本は小説、2012年ミステリNO.1と帯には書いてあったが、果たしてミステリという範疇のものだろうか。
ミステリ小説という形態はとってはいるものの、内容は寧ろ社会派小説。
著者の凄まじいメッセージが伝わってくる。

事件は2年前の都内の居酒屋で起きた。

全身黒づくめで目だし帽を被った男が「マニー!マニー!」と叫びながら、レジから現金を奪う。
金目当てなら、現金を得たところで逃げるだそうに、客席へ行って、二人の客を惨殺してから逃走。
殺害されたのは、新潟の産廃業者の男と仙台の獣医師。
二人に接点は無い。
捜査本部は初動から「金目当ての不良外国人」に絞り込んだが結局行き詰まり迷宮入り寸前。
この事件を任されたのがその継続捜査班の老刑事。

方や殺人事件の犯人探しとは別の物語が併行して進んで行く。

全国に大型ショッピングセンターを拡大して行く大企業。
ショッピングセンター(SC)や他の大型チェーン店の進出により、地方都市の商店街はシャッター通りとなり、大抵のショッピングセンターは郊外に作られるため、車を持たない老人達は買い物難民となる。

その大型SCも進出当初はいいが、肝心のスーパーは利益率が低い。
高収益を支えているのが、店子として入っている、スポーツメーカーや衣料メーカーの一流店からの歩合収益。

これらも一流ブランドがどんどん撤退して行くと、先行きはどんどんあやしくなる。

集客が思うようにいかなくなると、そこを閉じてまた別の場所へ出店する。
そうして、地方を根絶やしにした後、撤退された後の地方には何も残らない。

そんな大手SCのやりように憤慨し、立ちあがるのが、一人のネット新聞記者。

彼女の奮闘により、SCの中で売られている加工肉製品がマジックブレンダーなる怪しげな、肉交ぜ機械で作られていることを突き止める。
そのメーカーこそが、まさに一時社会を騒がせたあのミートホープの社長と全く同じやり方の混合肉づくり。

後半で出てくる、BSEの問題、口蹄疫問題、原発放射能による牛に対する風評被害の問題。

食の安全を守りたい、地域の商店街よよみがえれ、真面目な農家を風評被害で苦しめるな・・・などなどいくつものメッセージが伝わってくるお話なのでした。

震える牛 相場 英雄 (著)